大阪大学と科学技術振興機構(JST)は、細菌の薬剤耐性獲得機構を明らかにしたと発表した。細菌の細胞膜にある蛋白質(多剤排出トランスポーター)が種々の薬剤を認識し、排出するメカニズムを原子レベルで初めて解明したもの。病原性細菌による多剤耐性化問題の克服に向け、大きな役割を担うものと期待される。
研究は、戦略的創造研究推進事業「生体分子の形と機能」の中で、村上聡氏(阪大産業科学研究所助教授)らのグループが、「薬剤耐性化問題の克服を目指した多剤排出蛋白質の薬剤認識機構の解明とその応用」のテーマで実施した。成果は16日付のネイチャーオンライン版に掲載された。
抗生物質に対する細菌の耐性獲得は、細胞膜に存在する多剤排出トランスポーターが本体と考えられている。トランスポーターは、細胞膜に存在する膜蛋白質で、膜を介して分子やイオンを運搬するが、細菌の多剤排出トランスポーターは細胞中の薬剤を能動的に排出し、薬の効果を消失させる働きを持つ。しかし薬剤を排出する仕組みはこれまで全く解明されておらず、これが多剤耐性化問題の深刻化につながっていると指摘されていた。
研究では、大腸菌の持つ最も強力な多剤排出トランスポーターと、薬剤(抗生物質・抗癌剤)が結合した状態の蛋白質複合体に注目し、X線結晶構造解析により立体構造を明らかにした。その上で、様々な薬剤を多剤排出トランスポーターが認識し、排出する仕組みを世界で初めて突き止めた。
研究グループが、今回の研究を通じて解明したのは次の点だ。
▽大腸菌の主要多剤排出トランスポーター「AcrB」分子は、X線解析から同じ蛋白質が3個合体した三量体であり、そのうち一つの蛋白質(パーツ)だけが薬剤と結合するなど、それぞれ異なる基質結合状態を有する。つまり、[1]薬剤を結合するための状態を持つパーツ[2]薬剤を細胞外に排出するための状態を持つパーツ[3]細胞の内側方向からAcrB内部に薬剤を取り込むためのパーツ――に分かれており、それぞれが協調的に作動している。
▽多剤排出トランスポーターの分子中に、薬剤の通り道がある。この通り道に存在する弁が開閉することにより、細胞内から細胞外へ薬剤を輸送する。
▽薬剤の結合状態や輸送経路中の弁の開閉状態は、AcrBの機能単位である三つのパーツにより異なる。これが、細胞膜の水素イオン濃度勾配のエネルギーによって転位し、輸送の方向性を決めるシステムになっている。
今後の展開に関してグループでは、「様々な多剤排出トランスポーターと抗生物質や抗癌剤との複合体を、結晶構造解析により調べることで、多剤排出トランスポーターによる薬剤の認識機構と、その排出機構が明らかになる」と説明。その上で、「多剤耐性化の原因蛋白質によって、薬剤が無効になる仕組みが原子レベルで理解できたため、この仕組みを利用して新薬開発につながることが期待される」としている。