科学技術振興機構(JST)の研究グループは、動物を1日の一定時刻だけ摂食できる環境におくと、脳内のこれまで特定されていなかった部位で時計遺伝子が新たに概日周期を刻み始め、生存に必須な食行動を食餌の得られる時刻に合わせるよう制御していく「食餌同期性」を明らかにした。将来的には、肥満などの新たな予防手段発見につながと期待されている。
あらゆる哺乳動物は、様々な行動パターンを24時間周期で制御する体内時計を持っている。例えばマウスなど夜行性動物の場合、いつでも餌がある状態では、視神経に直結した脳内の分子時計(光同期性クロック)によって、夜は行動・摂食し、昼は眠るように支配されている。
しかし、餌が昼間の一定時間帯しか得られない環境に置かれると、マウスはこのクロックを無視して行動パターンを昼夜逆転させ、餌のある昼間に行動し、摂食するように順応していく。こうした食餌同期性の概日行動パターンを起こすことは既に知られていたが、それを支配している体内時計がどの部位にあるのかは不明であった。
今回、研究グループは、通常飼育環境下のマウス(自由給餌)と、昼間の一定時間帯でのみ摂食できる環境に置いたマウス(昼間制限給餌)からそれぞれ脳を取り出し、時計遺伝子の24時間発現パターンを、あらゆる脳内部位で比較した。その結果、脳内の視床下部背内側核と呼ばれる場所で、昼間制限給餌の場合だけ、時計遺伝子(分子腹時計)が24時間周期でスイッチをオン・オフし始めることを見出した。
睡眠覚醒や食欲の日内変動は、ヒトの場合もマウスと同様に、「光同期性クロック」と「食餌同期性クロック」によって支配されている。研究グループは、「食餌同期性クロックの存在部位が明らかになったことから、腹時計が食餌によってどう制御され、またどのように食欲・食行動を支配しているのかを解明していく最初の突破口が開かれた」としている。
腹時計を調節する、あるいは腹時計からの情報を伝える分子が明らかになれば、将来的には、肥満や生活習慣病を予防する新たな手段の発見につながることも期待されている。