独バイエルは12日、ヒトiPS細胞に関する発明について出願中の特許が成立すれば、それを米バイオベンチャーの「iZumi Bio」に譲渡することで合意したと発表した。譲渡の対価は公開していない。
この技術は、バイエル薬品の神戸リサーチセンターで再生医療の基盤研究に取り組んでいた桜田一洋氏らのチームによって確立され、2007年6月15日に国内特許が出願された。
しかし、癌、心疾患、画像診断薬、婦人科の4領域に研究を集約する独バイエルの方針に伴い、再生医療領域を担っていた同センターは07年末に閉鎖。これを受け、桜田氏はバイエル薬品を退社し、07年末に科学最高責任者(CSO)としてiZumi Bioに入社したという経緯がある。
独バイエルは「桜田氏が新たな場所でiPSの仕事を継続できるよう、関連する知的財産をiZumiに譲渡することを約束した」と発表。バイエル・シエーリング・ファーマ経営委員会メンバーのアンドレアス・ブッシュ博士も「幹細胞研究はバイエルにとって戦略外に位置づけられており、それを継承して研究していただけるパートナーが見つかったことは喜ばしいこと」とコメントしている。
同社のiPS細胞作製技術はこれまで明らかにされていなかったが、独バイエル・シエーリング・ファーマアクチエンゲゼルシャフトを出願人、桜田氏ら3人の日本人を発明者とした特許出願が08年12月25日に公開(JP 2008-307007A)されている
公開内容によれば、出生後のヒト組織に存在する未分化な幹細胞にOct3/4、Sox2、Klf4の3遺伝子、あるいはそれらの3遺伝子に加えc-Myc遺伝子またはヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤を導入することで、ヒト多能性幹細胞を誘導できることを見出したとしている。
このほか、国際特許出願も09年1月15日に公開されている。
iPS細胞に関する特許については08年9月11日に、京都大学の山中伸弥教授が樹立したiPS細胞の作製方法の特許が国内で成立したと京都大学が発表。これは、Oct3/4、Klf4、c-Myc、Sox2の4遺伝子を体細胞に導入し、iPS細胞を製造する方法で、権利期間は親出願である特願の出願日、06年12 月6日から 20年間となっている。
山中氏の技術と桜田氏らの技術では、導入する遺伝子や化学物質の種類、導入対象の細胞などが異なっており、バイエルが出願中の特許が成立するかどうかは、今後の特許庁の判断に委ねられている。