患者との対話を重視、電子薬歴を効果的に活用
|
患者と十分にコミュニケーションを図りたい、そして患者の役に立ちたい――。7年前の開局以来、そのような理念で業務を展開してきたのが「保険調剤薬局つつみ」だ。昨年2月から、衝立で区切った四つの投薬窓口に1台ずつ、SOAP形式で記入可能な電子薬歴を設置した。薬歴を探す手間が省けるなど業務の効率化が実現。次回来局時のチェックポイント引き継ぎや副作用歴の検索などがやりやすくなった。検査値の推移グラフや副作用の初期症状の画面を見せて話すなど、患者との対話の円滑化にも電子薬歴は役立っているという。
【立ったままの薬渡しを廃止、相談しやすい雰囲気つくる】
同薬局は1999年5月に開設された。薬剤師5人を含む11人のスタッフで、1日平均約120枚の処方せんを応需している。近くにある園田病院の受診者がほとんどで、消化器、循環器、脳外科関連の疾病を抱える高齢患者が多い。
薬局の中に足を踏み入れると、正面には処方せん受付窓口、左手には四つの投薬窓口がずらりと並ぶ。立ったまま薬を渡すだけという対応を、同薬局では行わない。高い衝立で遮られた投薬窓口で、椅子に掛けて対話するのが基本だ。
「コミュニケーションを十分にとれる薬局にしたい」(代表取締役・薬剤師青木浩朗氏)というのがコンセプト。じっくりと話を聞く姿勢を大切にしている。それが患者の満足度の向上になるし、薬剤師のやりがいにもなるからだ。時には30分ほど患者の話を聞くこともある。最近は電話での相談も増えてきた。
電子薬歴は約1年半前に導入した。紙の薬歴では探すのに時間がかかり、調剤のスタートも遅れる。「そういった無駄な時間を削減し、患者さんと対話する時間を確保したかった」と青木氏は言う。ファイル代も含めると紙の薬歴はコストがかかり、保管場所をとることも問題になっていた。
数ある電子薬歴の中からどれを選ぶのか。決め手になったのはSOAP形式の記載だ。
同薬局は、薬歴の記載について悩みを抱えていた。薬局内の勉強会で過去の薬歴を見直してみると、書いた本人でさえ何がポイントなのか掴めていないケースが少なくなかった。患者情報の把握が不十分だった上、対話などで得た情報をうまく記載できていなかったからだ。これらの問題を解決する手段として、3年ほど前からSOAP形式の記載を進めてきた。
電子薬歴に切り替える際も、SOAPでの記載にこだわった。こうした中、ある学術大会で実際に操作性を確認し、「SOAPでダイレクトに表現できる」(薬局長緒方武氏)ことを評価したノアメディカルシステムの電子薬歴「SOAP Q&S」の導入を決定。レセコンも同社のシステムに変更した。
【SOAPが決め手、患者の問題を共有】
|
電子薬歴を導入した結果、「薬歴を探す必要がなくなり調剤のスタートが早くなった。ばたばたしなくて済むため、薬局内の雰囲気が落ち着き服薬指導に専念できるようになった」と緒方氏は話す。
また、操作に慣れるうち「当初は想定していなかったメリットがどんどん浮かび上がってきた」と言う。
患者が抱える問題、プロブレムリストを共有できることがその一つだ。「副作用の可能性やコンプライアンスの確認などフォローしてもらいたい事柄を入力しておくと、それが次回、画面に表示される。薬剤師間の引き継ぎが円滑になった」(緒方氏)
ある薬剤を服用した時に、副作用が発現したかどうか、過去の情報をキーワードで直ちに検索できることも電子薬歴の利点だという。「表書きをみれば、すぐに情報を把握できる紙の薬歴に比べ、情報を見逃しがちなところが電子薬歴の弱点だと思っていたが、最近、検索システムが付加され、使いやすくなった」(同)
【電子薬歴活用で理解深まる】
電子薬歴はコンプライアンスの確認にも便利だ。画面にはカレンダー形式で投薬日数が表示される。それを患者に見てもらいながら「どうやらのみ忘れがあるようですよ」とやんわりと伝え、のみ忘れを防ぐ方法、のみ忘れた時の対応などを話し合えるという。
患者から提示された検査値の推移をグラフで表示して治療への意識を高めたり、副作用の初期症状を画面に表示して不安感を解消したりするなど、コミュニケーション媒体としても電子薬歴を役立てている。
健康食品の情報検索や添付文書の閲覧も、インターネットを介し電子薬歴端末で行えるため、投薬窓口での患者の質問にすぐ対応できるようになったという。
患者との対話などで得た情報は、セル選択と追記の組み合わせによって簡単にSOAP形式で入力できる。手書きの時には「1日でボールペンを1本使い切ったこともあり肩が凝った」(青木氏)というが、その問題は解消された。よく使う言葉やフレーズを薬剤師がそれぞれ登録、日々追加している。「素晴らしい文章でこれは残したいと思った時には、ボタンひとつで登録でき便利」(同)という。
【患者から選ばれる薬局に】
|
「ここでは、薬剤師が指導をしていくら、ではなく、薬剤師として何ができるのかをいつも自分たちで考え、まず行動を起こすことから始まる」と青木氏は強調する。「自分たちが現場で患者さんにしてあげたいことは、手間だけがかかって利益が出ないことの方が多い。しかしそのために自分たちの仕事がある」。薬剤師に相談しやすい雰囲気を大切にしながら、患者から選ばれる薬局や薬剤師になりたいと話している。