公文裕巳氏
岡山大学ナノバイオ標的医療イノベーション(ICONT)センターと、岡山大学発バイオベンチャーの桃太郎源は来年9月に、米国でREICを活用した遺伝子医薬の開発に着手する。都内で開かれた記者会見で、桃太郎源取締役の公文裕巳氏(ICONTセンター長)は、「REIC」の作用メカニズムが解明されたことを示した上で、「前立腺癌に限らず、幅広い癌腫に適応が可能で、治療法のない固形癌に対し大きな可能性を秘めている」と期待を込めた。
REIC遺伝子医薬の米国での治験は、FDAでの臨床試験申請が受理されてからになるが、早ければ来年6月に受理される予定で、既にFDAと治験を開始するための協議に入っている。また、米国ベイラー医科大学ベクターセンターでGMP規格の、REIC遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクター「Ad‐REIC」製造にも着手している。
米国での臨床試験では、再発リスクが高く限局性の前立腺癌患者12018人を対象に、Ad‐REIC製剤の安全性などが検証される予定だ。
REICは、不死化細胞の研究から、岡山大学で独自に単離・同定された遺伝子で、癌抑制遺伝子の1種。正常細胞に高発現しているが、各種の癌細胞では高い頻度で発現が抑制されていることが分かっている。
その作用機序を明らかにするために、REICの発現が低下した前立腺癌に、「Ad‐REIC」を導入した結果では、小胞体で折り畳まれていない異常なREIC蛋白質が産生され、その蓄積によって「小胞体ストレス」が起こり、アポトーシスが誘導されることが確認されている。
そうしたアポトーシス誘導効果に加え、樹状細胞がアポトーシスによって断片化した癌細胞片を取り込み、抗原提示することで、細胞障害性T細胞を活性化するという免疫を介した作用も明らかにされている。最近の研究では、REIC導入によって、IL‐7誘導因子であるIRF‐1が増加することで、IL‐7を介してNK細胞を活性化させることも確認されており、腫瘍免疫系の賦活化も期待されている。
そのほか、前立腺癌モデルマウスに肺転移を起こした後、Ad‐REICを前立腺癌に局注した結果、転移巣に対しても治療効果があるとの成績が得られている。
様々な固形癌でREICの発現異常が認められることから、公文氏は、「これまで進められてきた癌の遺伝子治療の研究成果と比較し、破格の効果を発揮する」と、Ad‐REIC製剤が既存の遺伝子治療と比較し有用性が高いことを強調。今後、前立腺癌のほか、乳癌や悪性中皮腫など、幅広い癌腫について開発を進めていく意向だ。