クロピドグレルは、冠動脈血栓症やステント血栓症などの治療に使用されているが、血小板凝集抑制作用には個体差があることが知られている。その原因としては、薬物代謝酵素のCYP2C19遺伝子の多型の関与が示唆されている。その多型がクロピドグレルの血小板凝集抑制作用に影響を与えるとの研究結果が、406日に開かれた第29回日本臨床薬理学会年会で報告された。
クロピドグレルは、CYP2C19によって活性代謝物となり、血小板表面に発現するP2Y12受容体に結合することで、血小板の凝集を抑制する。これまで、CYP2C19の遺伝子多型がクロピドグレルの低反応に関与するとの研究成果が蓄積されてきている。人種差も確認されており、遺伝子活性が欠損し代謝機能が低下している割合が、欧米では約3%であるのに対し、日本人では約20%とされている。
実際、代謝機能が高いEM群、EM群に比べて代謝機能が低いIM群、代謝が遅いPM群が知られており、代謝速度の違いによって、血栓の形成阻害作用に差がみられるという。梅村和夫氏(浜松医科大学薬理学)らが、日本人の健常者117人を対象に、クロピドグレル300mgを単回投与し、活性代謝物の血中濃度推移と血小板凝集抑制作用を評価した結果、血中濃度に個体差を確認。血小板凝集抑制効果が10%以下まで低下する低反応例の患者が20人(17%)であることが示された。
そこで、健常者47人にクロピドグレルを投与して、血漿中の血小板機能を測定できるアグリゴメーターを使用し、血小板凝集能の抑制率を評価した。その結果、抑制率がPM群では約20%であったのに対し、EM群では約40%と、代謝速度の違いにより、血小板の凝集抑制効果に、最大で2倍程度の差が確認された。
さらに、クロピドグレルの活性代謝物の血中濃度を検証した結果、EM群では血中濃度が高く、PM群では血中濃度が低いことが確認された。AUCも同様の傾向がみられ、活性代謝物の薬物動態にCYP2C19遺伝子の多型が影響することが示唆された。
クロピドグレルの標的部位であるP2Y12受容体の活性を評価するため、受容体活性化の指標となる血管拡張薬刺激性リン蛋白質(VASP:Vasodilator-stimulated phosphoprotein)のリン酸化とVASPのリン酸化と受容体に対するクロピドグレルによる抑制効果を評価した結果、遺伝子多型の存在が有意にVASPのリン酸化、血小板の凝集機能に影響を与えてることが認められた。