
第8回北里・ハーバードシンポジウム
世界的な医薬品開発の方向性を探る「第8回北里・ハーバードシンポジウム」が9月30日、都内で開かれ、バイオマーカーを用いた医薬品の臨床評価や、予防ワクチンの有効性評価などのあり方が議論された。
医薬品医療機器総合機構新薬審査第3部の宇山佳明氏は、代替マーカーを使った医薬品評価の考え方に関して見解を述べた。注目度が高いバイオマーカーの新薬開発への活用について、「変動が真のエンドポイントと結びついているものが必要」との認識を示した。
現状では、真のエンドポイントとの関連が不明なマーカーが多いことから、宇山氏は「バイオマーカーは新薬開発の促進に有用だが、事前にバリデーションをきちんと行い、どんなバイオマーカーを使うかを考えなければ、効率的な新薬開発にはつながらない」と指摘した。
その上で、バイオマーカーを用いた新薬開発を国民に還元するためには、様々な民族が参加するグローバル試験の早期段階からバイオマーカーを組み込み、反応性を調べることが必要になるとした。
バイオマーカーを用いた評価に関しては、日米欧3極の規制当局がジョイント会議を開くなど、議論を始めており、ICHでもトピックとしてE16「ゲノムバイオマーカーの記載方法」が取り上げられている。来年6月前後には、ドラフトガイドラインが公表される見通しだ。
宇山氏は、「バイオマーカーには限界もある」と指摘した上で、「各当局と連携して、グローバル開発の枠組みの中で適切に使っていく必要がある」との考えを示した。
総合機構生物系審査第2部の鹿野真弓氏は、日本でも上市が予想される予防ワクチンの評価について、「血清抗体価を指標に評価してきた従来の方法は使えない」と述べ、「予防ワクチンを日本で導入するためには、グローバル試験に日本人を組み込んだ開発を考慮してほしい」と企業側に求めた。
また、新ワクチンの導入には、サロゲートマーカーの選択が焦点になる。新型インフルエンザワクチンなどでは、真のエンドポイントの評価は現実的に難しいためだ。鹿野氏は「サロゲートマーカーと有効性の関係は説明していただきたい」とした上で、「サロゲートマーカーで評価を行うと、承認後に評価をどう行うかなど不明な部分が残ってしまう」と課題を指摘。そのためにも早めの治験相談をと呼びかけた。
「薬剤計量学」”新しい評価法とし注目
米FDAが新たな定量的な手法として「薬剤計量学(ファーマコメトリクス)」の導入を試み、医薬品評価に積極的に活用している現状も報告された。薬剤計量学は、定量的な疾患モデルを用いる手法で全ての有効性を決定するというもの。既にFDAは疾患モデルを構築し、ピボタル試験やPOC試験など様々な段階のデータを蓄積。それに基づき、治験のシミュレーションを行い、用法・用量など承認内容を決定している。
米FDAのプラビン・ジャドハヴ氏は、ハンチントン病治療薬「テトラベナジン」の審査で提出された二つの治験データのうち、ネガティブとなった試験の全データを用量相関によって再解析した結果、有効性が認められた例を紹介。「ハンチントン病のような希少疾患では再び治験を行うのは困難で、当局にも柔軟さが要求されている」と述べ、さらに先取りする形で薬剤計量学をエンドポイントの評価に活用していく考えを示した。
その上で、ジャドハブ氏は「薬剤計量学は、新薬開発の効率的な実施とコスト削減に重要な役割を果たす」と強調。「今後、開発段階の大きな決断に影響を与えるだろう」と語った。