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ヒト白血病で発現が亢進することが知られている転写因子「Evi‐1」を消失させることで、白血病発症後でも生存率が延長することを、黒川峰夫氏(東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科)らが明らかにした。黒川氏は、Evi-1の活性を抑えると共に、化学療法剤を併用することで、「より患者の生存率を延長させることができる可能性がある」とし、さらに検討を進めることにしている。
骨髄性白血病や骨髄異形成症候群では、Evi‐1が高発現していることが確認されている。Evi‐1を高発現している白血病は、極めて予後不良となることが知られていた。
Evi‐1は、正常細胞では造血幹細胞に特異的に存在している転写因子の1種で、造血幹細胞の維持・増殖に働いていることが分かっている。
その実際を確かめようと、黒川氏らは、Evi‐1の生体内での役割を解明するため、Evi‐1ノックアウトマウスを作製し検討を行った。作製されたEvi‐1ノックアウトマウスでは、造血幹細胞の極端な減少が認められている。
検討は、放射線照射によって骨髄細胞を死滅させた野生型マウス14例に、Evi‐1ノックアウトマウス由来造血幹細胞と野生型マウス由来造血幹細胞を移植する方法で行われた。その結果、ノックアウト細胞移植群では全例死亡が確認され、Evi‐1が造血幹細胞の増殖などに必須であることが確認された。
最近の研究から、白血病では、白血病細胞の全てが増殖しているわけではなく、白血病細胞の中にごく少数の白血病幹細胞が含まれ、それがもとになって大多数の白血病細胞を作り出していることが分かってきている。黒川氏らは、Evi‐1が白血病で高発現していることや、造血幹細胞の複製・増殖に働いていることから、白血病幹細胞も造血幹細胞の持つEvi‐1を介した高い再生能力を巧みに利用しているのではと推測。Evi‐1発現を抑制することが治療につながるのではないかと検討を行った。
Evi‐1を欠損させたマウス白血病細胞と欠損させていないマウス白血病細胞を用い、野生型マウスに移植する実験を行ったところ、Evi‐1を欠損させたマウス白血病細胞を移植した群の生存率が延長するという結果が得られている。他の複数の難治性白血病モデルでも同様の結果が認められている。
それらの成績を踏まえて、黒川氏は「複数の難治性白血病モデルマウスで、生存率の改善効果と白血病細胞の増加を抑えられたことから、ヒトでも難治性白血病の治療ができるのではないか」と期待している。
臨床応用に向けては、いかにEvi‐1の抑制を図るかが問題になるが、Evi‐1の発現を調節する遺伝子領域で分子修飾が起こって、Evi‐1の発現が低下するという予備的知見があり、「遺伝子への分子修飾を抑えることでEvi-1の発現を制御できる可能性が高い」としている。
ただ、Evi-1を完全に除去させた場合、正常細胞への影響も懸念されるところ。その対策として、黒川氏は「白血病幹細胞では、正常造血幹細胞に比べてEvi‐1の発現が亢進していることから、用量設定や他の抗癌剤との併用療法などを検討することで、解決できる可能性がある」とし、今後さらに検討を進めることにしている。
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