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市場、研究開発(R&D)拠点としての新興国が注目されている中、日本製薬工業協会の医薬産業政策研究所は、定期的に刊行しているリサーチペーパーで、欧米製薬企業が近年相次いで研究所を開設した中国を取り上げ、その背景を分析した。科学技術振興を国策として進め、「自国の人材だけでなく、海外の優れた人材の招聘や外国企業誘致、彼らが活躍できるクラスターの整備など、R&D活動の場としての魅力を向上させてきた」成果と指摘。日本のR&Dの国際化への対応の遅れに対し、中国の魅力は「相対的に向上してきている」との見方を示した。
これは笹林幹生前主任研究員と八木崇主任研究員がまとめたもの。それによると、R&Dは自国内だけでなく、優れた人材、知識、技術があれば国際的にどこでも活用する方向にシフトしてきている。欧米製薬企業が近年、中国、インド、シンガポールなどに研究開発拠点を構えているのも、その流れにあるとの認識を示している。
その中で、中国は世界トップ10のうち5社を含む企業が、上海、北京に拠点を開設していることから分析の対象となった。レポートでは、進出の背景には▽約20年前からの科学技術に強い人材の育成策を踏まえた豊富な研究者の輩出▽欧米への留学生の呼び戻しや海外研究者の招聘による人材の国際化▽大学や研究機関との共同研究など、連携がしやすい有効なクラスターの整備””があるとし、それらを政策的に進めてきた成果と分析した。
人材育成では、90年までの5カ年計画以降、研究者数、大学院修了者数は急激に増加し「米国と肩を並べるまでの科学技術人材輩出国に成長している」と評価した。
国際化の面でも、海外で博士号を取得した研究者の多くは海外にとどまっているものの、近年は帰国留学生を資金的に優遇するなどの支援を政策的に進め、「中国は頭脳流出から頭脳獲得の時期に入ってきている」との見方を示した。また、海外研究者の招聘にも、「世界トップ100位以内の大学・研究機関から1000人以上招聘し、国内の研究者との共同研究拠点を100箇所形成しよう」という「111計画」が進行中という。
科学技術論文数ランクも二桁から近年は一桁にランクインしてきているという。
クラスターでは、欧米製薬企業が進出している上海の「張江ハイテクパーク」を取り上げた。インキュベーション施設、CRO、120社のベンチャー企業があり、上海交通大学、復旦大学、中国科学院上海薬物研究所などが隣接していることを紹介し、「企業、大学、研究機関、ベンチャー企業間の連携が容易に行える環境が整備されてきているといえる」とした。治験が行える医療機関も誘致され、非臨床から臨床までの試験が実施可能という。
法整備では、2020年までの「国家中長期科学技術発展計画」でバイテクの強化、革新的医薬品の創出を重点課題とし、10年までの5カ年計画で外資導入を積極的に進めていることを挙げた。また7月には科学技術進歩法が施行され、バイオ産業の発展を促すため、税制上の優遇、予算の優先投入される方向にあるという。
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