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■「十分な検討」に疑問符
「日本版FDA」と銘打った構想だが……。
写真は最初に構想をまとめた「自民党社会
保障制度調査会薬事政策のあり方検討会」
自民党から降って沸いた「医薬品庁」構想。承認審査、安全対策、副作用被害救済などを一括して行う組織で、厚生労働省から「距離を置いて」設置するものだという。社会保障制度調査会と科学技術創造立国推進調査会の二つの調査会がそれぞれ提言し、異例にも共同で、党政調会長や首相官邸に対し実現を求め申し入れることを決めたが、実現への着地点は見えてない。
■異例の自民2調査会共同提案
両調査会の提言の原点は、承認審査や安全対策を厚労省と医薬品医療機器総合機構が役割分担して実施している二頭体制が「非効率」であり、見直しが必要という点にある。
製薬業界からも「総合機構で、本省に判断や権限があるから、ここ(文書)に書いている以上のことは話せないと言われ、その点を改めて本省に聞きにいかなければならない。ダラダラ時間が過ぎる」(中堅メーカー薬事担当者)といった不満は少なくない。
そこで提言されたのが、薬事行政の医薬品庁への一本化。承認審査のスピードアップも含め、体制強化のため、承認審査担当職員約550人、安全対策担当職員約300人を増強するというものだ。製薬業界にも好意的な見方はある。
しかし、医薬品庁に込めた思いは、両調査会それぞれ異なる。
社会保障制度調査会は、薬害肝炎問題を受け薬害再発防止策として提言している。まず、二頭体制では責任の所在が不明確という問題意識がある。それに加え、強化してきた承認審査体制と比べ、安全対策部門の脆弱さも問題視していた。国内の副作用だけで年間約3万件の副作用情報を、安全対策担当職員が60人程度で処理するという状態にあるからだ。
その上で、過去の薬害を受け、産業を振興する部門(研究開発振興課、経済課=現医政局)を、承認審査や安全対策など産業を規制する部門(現医薬食品局)から分離した1997年の組織改革をさらに徹底していく。組織改革は、産業振興に気兼ねせず規制できるようにする狙いで行われたもので、提言では「(規制部門は)医薬品産業や医療政策全般を所掌する部署(厚労省)とは中立的で牽制関係にあった方がよい」とし、部局の分離にとどまらず、医薬食品局を厚労省から切り離すという考え方になっている。
一方、科学技術創造立国調査会は、「科学的基盤に立って」最先端医薬・機器の有効性・安全性を迅速に評価し、いち早く国民に届けることが主眼。二頭体制は迅速さに欠けるとして、医薬品庁が必要という考え方となっている。表だっては言わないが、規制部門から分離された研究開発振興部門の再統合も視野にある。
社保調査会が主眼に置く“安全対策の強化”、科技調査会は“承認審査体制の強化”で、それぞれ理念が違っている。それでも共同申し入れとなったのは、「求める形は同じなので、多少の理念的なズレは乗り越えて一緒に主張できることはしようということ」と、提言づくりに携わった議員は話す。
どこか手柄争いの臭いがしなくはないが、この創設理念のズレが足かせとなる。
■創設理念のズレが足かせに
医薬品庁をどこに置くかは「検討課題」(両調査会)としているが、社会保険庁のような厚労省とつながりのある組織ということで関係者の認識は一致している。医薬品庁は「日本版FDA」とも呼ばれ、本家の米FDAもHHS(保健福祉省)に属する。当初あった内閣府案は、現段階では薬害の責任が首相に直結してしまうとして退けられている。
とはいえ、公務員の削減など行政改革が進められている中での中央省庁組織の新設だ。提言した調査会側は、厚労省ではなく首相官邸、政府全体を巻き込んだ議論が必要になるとしている。科技調査会は「来年の通常国会には法案を出したい」との意向を示しているが、そのためにはきちんと官邸に説明して議論を促さなければならない。
しかし、提言の理念のズレから、提言づくりに携わった先の議員は、「皆違うことを言う恐れがある」と言い、「ボールは官邸にある」ものの、官邸へのレクチャーはできていないという(13日現在)。現在、福田首相肝煎りの消費者庁の創設もあり、ますます切り出しにくい状況にあるという。
単なる理念の違いではないかと思えるが、それは後々の予算の付き方や組織運営の仕方にも影響する。
さらに、この構想に根強い批判があることが、実現への着地点を見えにくいものにしている。
■厚労省への総合機構統合も浮上
構想は、福田首相も気にかける薬害被害者に評判が悪い。厚労省の責任逃れとの見方もある。
薬害エイズ事件被害者の大平勝美氏(はばたき福祉事業団理事長)は、医薬食品局を厚労省内部から切り出すことには批判的だ。むしろ、厚労省の中に医薬品医療機器総合機構の承認審査と安全部門を統合させた方がよいと考えている。
同事件の教訓は、薬事だけでなく、医療機関、医師への指導も可能にする医療行政を含む厚労行政全体の中で対策が検討、実行されるべきところにあるからだ。
薬害肝炎全国弁護団は、社保調査会の提言づくりに向けた意見聴取で、「安全性監視機構」という独立機関の創設を提言している。独立機関という意味では共通するが、鈴木利廣弁護士は「われわれの提案とは似て非なるもの」と批判する。
弁護団の提言は、98年の日弁連の提言がベースで、「医薬品の安全性確保が適切に図られているかを(外部から)常時監視し、安全性に疑問が生じた医薬品については、製造承認の取消、販売中止、回収等の緊急命令発動等を勧告する」組織。
鈴木弁護士は、打ってきた対策が効果的に運用されているかの検証が必要という。それもなしに新たな対策を打っても、薬害防止にはつながらないと考えるからだ。
似た意見は実は、社保調査会の中にあった。同調査会が提言をまとめる4月10日の会合で、木村義雄衆議院議員は、「医療と薬はシームレス。医薬品(行政)を別にしていいのか」「(非効率があるなら)ワークするようにしたらいい。単なる形式論、人気取りではだめだ。責任は誰が負うのか」と猛烈に食い下がった。
設立から4年しか経っていない総合機構の運用を見直し、薬事行政の責任は厚労大臣がとるべきとの主張だ。裏返せば、医薬品庁構想は厚労省の責任逃れということになる。
木村氏の意見に対し社保調査会の鈴木俊一会長は、会合で「幅広く議論していきたい」と引き取ったが、木村氏の主張は結果的に封印された。 省内にも、総合機構を厚労省に統合すべきとの意見がある。ただ、医薬品庁にしろ、総合機構の厚労省への統合にしろ、行革の流れに逆行することには変わらない。「単に人を増やすなら、独立行政法人(=総合機構)のままが一番いい」(複数の厚労省職員)との指摘もある。
■「薬害」の忌避感、省内事情も後押しか
にもかかわらず、その中で医薬品庁構想が推されるのか。複数の厚労省関係者や国会議員の話を総合すると、構想が厚労省内の事情から生まれたとの疑いが浮かび上がる。
証言を集めると、構想の根底には「たびたび薬害問題で責められては、厚労省がもたない」との組織防衛的な考えがある。また、産業振興部門が切り離され、技術的な規制部門だけとなった医薬食品局で、「局長が事務系キャリアである必然性は薄くなった」との声もある。一方、「権益拡大の機会と捉えた」との指摘もある。
これらから、薬事行政の持つ薬害という宿命的な責任から逃れたいという医薬食品局に対する忌避感と、大幅増員などによる「権益拡大」の思惑が相まって、「医薬品庁」に行き着いたという一つの推理ができる。
厚労省OBは、この構想を描くのは「簡単なこと」と話す。調査会が課題としていたのは、非効率な二頭体制を改めることと、責任の所在の明確化を図ることにある。それを前提に、薬害防止策のために抜本的な組織改革を描くとすれば、「ほとんど選択肢はない。国家行政組織法上の(行政処分が下せる)3条組織か、(行政の長に意見を述べるにとどめる)8条組織かだ。あとはいろいろと創設理由と背景を肉付けすればいいだけ」だという。
目的を実現するために、もしこうした省内事情があっても、それを利用して事を動かすということは確かにある。しかし、“大構想”のわりには、荒っぽさが目立つ。
医薬品庁構想には頷ける面もあるが、反論として出されている厚労省への総合機構統合論や監視機構創設に対する検証がない。独立組織にすれば対策は強化されるのか、増員職員はどこからどう確保するのか、組織はどこに置くのか、社保庁方式にした場合、社保庁の無責任体質の二の舞を招かない保証はあるのかなどなど、素朴な疑問は検討課題として残されたままだ。
この構想が、単なる省内事情から生じたものでないことを願うが、国民のための構想というには、十分な検討がされた跡が見えず、議論が不足していることは明らかだ。
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