新潟薬科大学が長野県上田市に予定していた「長野薬学部」(仮称)の開学を事実上、断念した。28日に開く予定の理事会で正式に決定する。
長野薬学部の設置をめぐっては、長野県が県内の医療団体の了承を条件に、財政支援を検討する意向を示していたが、長野県薬剤師会が4月の理事会で「賛成しない」ことを決定したことで、計画の凍結を余儀なくされた。
長野県薬は、反対の理由として、地方の私立大学などで深刻化している定員割れの問題などを挙げたが、関係者の間で今後の18歳人口や地元の進学ニーズ、県内の薬剤師不足などのデータを踏まえ、定員100人の薬学部を設置することの是非について、侃々諤々の議論がなされたという印象を受けなかった。
長野県薬と上田薬剤師会の確執も影響したとされている。長野県薬と上田薬剤師会の間では、会費徴収・納付義務をめぐって訴訟に発展し、現在も係争中だ。進学を希望している地元の高校生もいることを考えると、こうした感情は、一旦、差し置かれた上で議論されるべきだったが、両者の対立に巻き込まれる形で、県内の関係者が一つになって進めるはずの「薬剤師養成」の計画を断念せざるを得なくなった。
いまの薬局・薬剤師業界が置かれている状況をみると、相手に対する感情が先行し、物事がうまく進まない。そんな“空気”が蔓延しているように感じる。
ハーボニーの偽造薬問題では、本来であれば、日本薬剤師会、日本保険薬局協会(NPhA)、日本チェーンドラッグストア協会が率先して対応策を講じなければならないが、3団体による医薬品の受け渡しに関するガイドライン策定は、行政からの強い要請に応じる形で進められた。
最近では、NPhAが2018年度診療報酬改定等に関する要望書の中で、調剤基本料や基準調剤加算、かかりつけ薬剤師指導料について、「複雑化し不公正な状況をもたらしている」などとし、「調剤基本料を一本化する方向で見直す」ことを求めるなど、雲行きが怪しい。
長野薬学部の設置計画の行方は、薬局・薬剤師業界の縮図だったのではないか。仮に、互いの感情を乗り越えて、真摯な議論が尽くされれば、かすかな光を見出せるのではと期待していた部分もあった。
秋以降、6年に一度の医療と介護の同時改定の議論が本格化する。財源が限られる状況で、これまで以上に厳しい戦いを強いられそうだが、内輪の争いを繰り広げていれば、相手を利することになる。
今後も、互いの感情を乗り越えなければならない場面は訪れる。業界の将来を見据えた、大局的な視点での対応を期待したい。