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リウマチにカテプシンK阻害薬が有望

2008年02月20日 (水)

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■東京医科歯科大学大学院教授・高柳氏らが解析

高柳教授
高柳教授

 破骨細胞に発現する酵素のカテプシンKが樹状細胞に発現し、免疫系の活性化に関わっていることが高柳広氏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学教授)らによって突き止められた。カテプシンKの活性を阻害する化合物「NC‐2300」を作製して調べた結果、判明したもの。関節リウマチの治療には、免疫抑制作用を持つ生物学的製剤などが主流となっていることから、免疫抑制作用に加え、骨破壊抑制作用を持つNC‐2300が自己免疫疾患など免疫と骨に関わる疾患の治療薬として期待される。今後、骨破壊などが関わる骨粗鬆症、多発性骨髄腫、歯周病を対象とした研究も進めていく考えだ。

■「NC‐2300」骨と免疫の両方を制御

 骨破壊を伴う骨粗鬆症、関節リウマチ、変形性関節症などのロコモーティブシンドローム(運動器症候群)は、破骨細胞の過剰な活性化による骨吸収の増大が発症原因の一つとされている。骨吸収には、システイン蛋白分解酵素の一種で、破骨細胞のライソゾームに存在するカテプシンKが重要な役割を担っている。

 そこで、高柳氏は、カテプシンKの阻害薬が骨粗鬆症の治療薬になると考え、日本ケミファと共同で低カルシウム食モデルラットを用い、カテプシンKの働きを阻害する化合物のスクリーニングを行った。その結果、同定された化合物が「NC‐2300」だ。

 NC‐2300は、カテプシンKの活性中心部に入り込み、活性中心を構成する第25番システインと共有結合することで、酵素活性を不活化する。動物モデルでは、無治療群と比べ、骨粗鬆症モデルマウスでは骨破壊が半分程度まで改善する結果が得られている。

 さらに、関節リウマチモデルマウスで評価したところ、関節破壊だけでなく、予想外の効果として、炎症に対しても効果を発揮することが分かった。

 実際、アジュバンド関節炎モデルマウスを対象にNC‐2300を評価したところ、無治療群では、後ろ足で立つことができずに下肢を引きずっていたが、NC‐2300投与群では炎症が抑制され、活動性も改善された。

 また、多発性硬化症モデルマウスのカテプシンK遺伝子を破壊したところ、症状が進展しないことが確認された。

 当初、NC‐2300が炎症を抑制する機序が明らかにされていなかったが、研究を重ねた結果、カテプシンKが免疫を活性化する樹状細胞内のエンドソームに選択的に発現しており、細胞内でのToll-like receptor(TLR)9のシグナル伝達経路に作用することが分かった。

 具体的には、細菌感染などで増加するというシャペロン蛋白を介し、TLR9と細菌やウイルスなどが持つ核酸成分であるCpGDNAが結合することによって、樹状細胞が活性化され、T細胞に対する抗原提示のほか、炎症性サイトカインであるインターロイキン(IL)6や、IL12、IL23を分泌し、Th17細胞を増加させる。

 増加したTh17細胞が、IL17を分泌。マクロファージを活性化し、TNF‐αやIL1を誘導する。その後、IL17、IL1、TNFαが炎症を引き起こすだけでなく、骨芽細胞のRANKL(Receptor Activator for Nuclear Factor κ B Ligand)を増やし、破骨細胞の分化・骨吸収活性に必要な情報伝達経路が活性化され骨破壊を増悪させることが分かった。

 また、樹状細胞のTLR9に異常がある場合には、CpGDNAが陽性であっても、IL12の量が有意に低下することも認められた。

関節リウマチの骨破壊

 このことから、NC‐2300が破骨細胞に加え、樹状細胞のカテプシンKに作用することで、免疫抑制作用と骨破壊抑制作用を発揮することが分かった。

 ただ、これまでの動物実験では重篤な症状は発現していないものの、作用機序を踏まえた場合、骨を標的とすると免疫抑制作用、免疫を標的とした場合,骨吸収の抑制が副作用として起こる可能性が懸念される。高柳氏は、「従来の治療法は免疫抑制作用を持った薬剤が用いられているが、NC‐2300は、骨と免疫系への両方の治療効果を持つため、関節リウマチのように骨と免疫の異常がみられる疾患では特に治療効果が期待できる」としている。

 また、関節リウマチの明確な発症機序は完全に解明されていないが、リウマチ様関節炎を自然発症するSKGマウスを対象とした研究から、近年T細胞受容体を介したシグナル伝達に関わるチロシンキナーゼ「ZAP‐70」を介したシグナル伝達が弱まり、自己反応性T細胞などが増加。その後、細菌感染など何らかの要因を経ることで、Th17細胞が増加し、骨破壊などを誘導する可能性があることが明らかとなった。ただ、関節リウマチの発症段階で、Th17細胞の増加に、樹状細胞がどのように関与しているかを評価する必要があるという。

 今後、高柳氏は、NC‐2300が樹状細胞内のカテプシンKを介するシグナル伝達制御に、どう関わっているかの詳細なメカニズムの解明が必要だとしている。

 さらに、歯周病を対象とした研究を進めていく予定。歯周病は、歯と歯肉の間にできた歯周ポケット内にプラークがたまり、侵食力の強い細菌の増殖が促される。感染が進行した場合、歯肉に炎症を引き起こし、歯肉の中にある歯槽骨を溶解することから、NC‐2300が有効性を発揮すると考えられている。

 なお、NC‐2300のヒトでの有効性や安全性を評価するため、今年中に米国でPIが実施される予定だという。

〈用語解説〉
 IL1:マクロファージから分泌され、炎症反応を誘導する
 IL6、IL12、IL23:炎症を増悪させるほか、Th17細胞を活性化させる
 IL17:Th17細胞から分泌され、マクロファージと骨芽細胞でのRANKLの発現を活性化させる
 RANKL:骨芽細胞に発現し、破骨細胞の成熟に関与する
 TLR9:樹状細胞などに発現している受容体で、微生物成分などを認識し、T細胞への抗原提示、IL6やIL23などのサイトカインの発現を誘導する Th17細胞:IL17を分泌する。自己免疫疾患で高発現するとされている

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