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東京大学医科学研究所教授の俣野哲朗氏は、都内で開かれた「ワクチン開発の研究・評価に関するフォーラム」で講演し、予防エイズワクチンの第I相試験を非営利団体「国際エイズワクチン推進構想」(IAVI)と共同で計画していることを明らかにした。俣野氏らは、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を持つセンダイウイルスベクターを用いた予防エイズワクチンをディナベックと共同開発。サルエイズモデルの実験で免疫不全ウイルスの複製制御効果を得ており、2015年には臨床応用を実現させたい考え。
HIV感染症に対しては、これまで様々な抗ウイルス薬が開発され、HIVの複製がある程度制御できるまでになってきた。しかし、飛躍的な治療薬の進歩にもかかわらず、HIV感染者は世界的に増加し続けているのが現状だ。俣野氏は、感染から発症まで数年かかる慢性感染症を征圧することの難しさを指摘した上で、「HIV感染症の制圧には、グローバルな視点と封じ込めが必要」と述べ、予防ワクチンがHIV感染症克服の切り札との考えを強調した。
HIV感染症の特徴は、慢性持続感染症であるためにウイルスの多様性が生まれ、自然感染の経過で誘導される宿主免疫によって、HIVの複製が制御されないことにある。そのため、予防エイズワクチンを開発するためには、免疫誘導法の開発に加えて、どのような免疫反応を誘導するかというウイルス複製制御機構の解明が重要になってくる。
こうした中、俣野氏らは、HIV複製抑制に中心的な役割を担うCTLに注目。CTLを効率的に誘導するセンダイウイルスベクターを使った予防エイズワクチンをディナベック社と共同開発した。
この予防エイズワクチンを、サル免疫不全ウイルスを感染させた急性エイズモデルに接種したところ、全てのサルでHIV複製抑制効果が得られたものの、慢性エイズモデルでは、一過性のウイルス量低下が見られるにとどまった。
しかし、一部のサルではHIVの持続感染が阻止されており、サルの慢性エイズモデルで初めて予防エイズワクチンの効果が示された結果となった。
そこで俣野氏らは、部分的なワクチン効果でも、集団としてのHIV感染の拡大阻止効果が期待できると判断し、非営利のIAVIと共同で第I相試験の実施を計画しているところだ。
俣野氏は、「予防ワクチンは製品としての利潤が期待できず、有効性の評価には大規模な臨床試験が必要となるため、非営利組織との連携が必要だ」と強調し、世界的な視野で予防エイズワクチンを開発することの必要性を訴えた。臨床試験の進捗状況によるものの、現段階では15年の臨床応用を予定しているという。
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