中央社会保険医療協議会の来年度の薬価制度改革骨子で、長期収載品の特例引き下げや市場拡大再算定が残ったことで、業界には敗北感が広がっている。本紙の取材に応えた日本製薬団体連合会の森田清会長は、“財政ありき”でこうした政策を進めようとする行政サイドに強い不信感を示し、「政策に一体感がない」「これでは信頼関係が構築できない」など、不満の言葉を口にした。森田会長は「新しい薬価制度ではこうしたルールが影も形もないものにしなければならない」と次期改革の議論で、巻き返しを期す。
業界側は昨年8月と12月の中医協薬価専門部会で意見陳述を行い、長期収載品の特例引き下げと市場拡大再算定について改めて反対する考えを表明した。
薬価制度改革をめぐって厚生労働省は、当初、業界にとって厳しい案を示したものの、12月の薬価専門部会で業界が猛反発したことを受け、了承された骨子では業界側の意見も入れ、市場拡大再算定には激変緩和措置が導入されたほか、特例引き下げも、前回上乗せされた2%がなくなり、従来の「4~6%」の追加引き下げにとどまった。ただ、一部については今後の課題として例示され、引き続き“宿題”としてなお、議論することになった。
結果的に、業界の声が届かなかったことに対し、森田会長は「(これらのルールは)そもそもあってはならないものだ」と、財政ありきで進めようとする行政当局の発想を強く批判すると共に、「次もやるというのであればとんでもない話だ」と、これらルールは今回で“打ち止め”にすべき考えを改めて強調した。
とりわけ、森田会長が強く主張するのは、医療制度の中での薬価のあり方だ。「医薬品産業は医療制度の中で薬物療法で貢献している。これを理解してもらい、その価値を薬価に反映してほしいというのがわれわれの考えだ」と、価値に見合った価格設定のあり方の重要性を訴えた。
一方で、今回の骨子では、業界の意見を受け入れ、新薬の評価が充実されたことについて、森田会長は「当然だ」とし、現実に2000年から画期性加算を受けたのは2品目しかないことから、「これでは話にならない。もちろん、モノを作れないわれわれも悪いが、加算要件を整理すべきだろう」と話す。
さらに、行政の施策として官民対話や新産業ビジョンなど、国を挙げて医薬品産業の振興に努めようとしていることと対比させ、「これでは政策に一体感がない」「これでは信頼関係も作れない」など、強い不信感を示した。
森田会長によると、一昨年から昨年にかけて、国会議員に製薬産業の抱える課題やあるべき姿を訴え続け、少しずつだがイノベーションの理解が得られ、それが安倍内閣でようやく形として出てきたとしており、「福田内閣に変わったとはいえ、こうした芽は引き続き育てていきたい」とし、イノベーションの重要性を訴え続ける考えだ。
また、森田会長は来年度税制改正で、研究開発税制が拡充されることについて、「税制が変わることは根っこから変わることでもある。われわれも要望していたことであり、(法人税額の最大30%までの控除が可能となったことは)いい仕組みだと思う」と評価する姿勢を示した。
今年4月から新しい薬価制度がスタートすることになるが、森田会長が危惧するのは流通だ。「薬価差に依存しないプロモーションがこれから重要だ。薬価は下がるだけではない。上がる仕組みも必要」だとした上で、「メーカーは研究開発や情報提供に特化すべきであり、日本の医療の質向上のための投資を行うべきだ」との考えを展開。メーカー自身にも“薬価差商売”の脱却を求めた。
次の制度改革に対しては、「新しいルールでは、こうしたルールが影も形もないものにしなければならない」と、次期改革議論で巻き返しを期す考えを強調した。