この1年間、日本は大きく揺れた。参議院選挙では自民党が歴史的惨敗を喫した。特に薬業界統一候補の藤井基之氏が落選したのは、痛恨の極みであった。薬業界では、前半は医薬産業がイノベーションの旗手に位置づけられたが、後半は社会保障費削減の財源として薬に照準が合わせられ、明と暗がクッキリ分かれた。激動の2007年も、6日を残すのみ。来る08年が良い年となることを祈りたい。
■進む登録販売者の制度化”試験ガイドラインも作成
2006年6月に成立した改正薬事法で、新たな医薬品販売専門家として「登録販売者」が設置された。来年には各都道府県で、その資質を確認するため試験が行われるが、試験の難易度等で都道府県間に格差が生じないように、6月末には「登録販売者試験実施のためのガイドライン」が策定された。
ガイドラインは「登録販売者試験実施ガイドライン作成検討会」が、受験資格を含む試験実施のあり方を、報告書として取りまとめたもの。
ポイントは、▽試験の実施方法▽試験問題数▽試験時間や合格基準――などの事務作業上の必須項目に加え、業界内外から注目されていた「受験資格」だった。当初の見込み通り「高卒(程度)以上、実務経験1年」とされ、薬学部卒業者は実務経験1年が免除されることとなった。
この報告書を受けて厚労省は、8月に試験の実施要領に関する通知を各都道府県に発出。試験は国が作成した「試験問題作成の手引き」の中から出題することを明記したが、手引きは原則として年1回改訂することとにしている。
9月中旬には、薬事法施行規則の一部を改正する省令案を厚労省が公表。パブリックコメントにより広く意見を求め、その結果を踏まえて最終調整が行われており、まもなく省令改正が公布される見込みだ。
登録販売者試験は、全国の受験者総数が5万人以上とも予測されるだけに、大きな注目を集めている。各都道府県ではブロック単位による試験問題の作成や、試験日の統一化などが検討されている模様だ。試験を円滑に実施されるためには、各自治体の役割が重要になる。
■産業政策に大きな進展”土台つくった官民対話
今年は医薬品の産業政策が注目を集めた1年となった。厚生労働、経済産業、文部科学の各大臣はじめ、産学官のトップが施策の方向性を話し合う官民対話。そこから生まれた革新的医薬品・医療機器創出5カ年戦略。それを盛り込んだ骨太の方針。戦略裏打ちの土台となる概算要求という一連の流れがあった。また、厚労省は新医薬品産業ビジョンも策定した。
官民対話は業界が長年要望してきた仕組み。製薬業界幹部と関係3省庁のトップが一堂に会し、わが国の医薬品分野におけるイノベーション創出と産業の国際競争力強化に関して、産官学のトップが認識を共有し、官民連携のもとで施策を推進していくことが趣旨。この対話がきっかけとなって「革新的医薬品・医療機器創出のための5カ年戦略」が策定され、「骨太の方針」にも盛り込まれるなど、一定の成果を上げたのは事実だ。
対話の場を求めてきた業界サイドからも、3省の大臣を含む産官学のトップが制度上の制約に縛られることなく、高い見地から継続的に議論できる場ができたと評価する声が聞かれた。とはいえ、継続的な取り組みが何より重要であり、今後も関係者同士の幅広い議論が期待される。
■承認審査体制を強化”ドラッグ・ラグの解消へ
医薬品医療機器総合機構は今年4月、中期計画を改正して今年度から3年間で審査人員を増員させる方針を盛り込むと共に、ドラッグ・ラグ短縮に向けた具体策を策定するなど、承認審査体制の強化を図った。
こうした対応がなされたのは、海外の医療現場で標準的に利用されている医薬品が、国内では速やかに利用できないとの声があったため。日本は米国に比べ申請前で1・5年、審査で1年のドラッグ・ラグがあるとされる。
特に昨年12月、総合科学技術会議から、マイクロドージングを含む探索的早期臨床試験に関する指針の検討や、医薬品医療機器総合機構の審査人員を3年間で増員するよう意見具申がなされた。これを受けて厚生労働省は、具体的な検討に着手。総合機構の審査人員については、手数料を値上げし、その増収分で増員を図ることにした。
現在、人員確保は進められているものの、これだけでドラッグ・ラグが解消できるわけではない。実現には審査の質を含め課題が残されており、新年度は産官で合意確認された成果目標の達成に向け、官民挙げた取り組みが期待される。
■薬価制度改革、再算定の適用範囲を拡大”引き下げは薬価ベース5.2%
2008年度の薬価改定は医療費ベースで1・1%、薬価ベースで5・2%引き下げられることが決まった。4月以降、3000億円以上の市場が消える計算になる。
厚生労働省の狙いは、政府方針に沿って新薬の革新性をより評価する一方で、薬剤費の伸びを抑制すること。
革新性の評価では、算定薬価に上乗せする補正加算の加算率を大幅に引き上げられる。「画期性加算」の加算率は現行より20ポイントアップされ、「700120%」と100%を超える加算率が認められた。「有用性加算I」は最大60%(現行40%)、最も算定が多い「同II」は最大30%(同20%)となる。小児加算、市場性加算なども引き上げる。
しかし、政府が徹底した歳出削減を求めていることもあり、薬価調査に基づく薬価改定に加え、業界が反対してきた長期収載品の特例引き下げ(下げ幅406%)、対象範囲を拡大した市場拡大再算定を実施することになった。
再算定ルール見直しの理由を厚労省は、「市場で競合している医薬品について、公平な薬価改定を行う」ためと説明したが、再算定対象薬の薬理作用が類似した薬剤全てを対象へ含めることに業界は猛反発。今回に限り、結果として再算定率が下がる激変緩和措置を採り入れることになった。
懸案の頻回改定や、業界が求めている新薬価制度案は、来年度以降の検討課題として先延ばしされた。
■診療報酬改定率が決着、8年ぶりの引き上げに”調剤報酬は0.17%アップ
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2008年度の診療報酬改定は、技術料部分を0・38%引き上げることで決着した。薬価・材料価格の改定も合わせると、実質は0・82%の引き下げだが、本体のプラス改定は00年度以来8年ぶり。歳出削減を断行しつつ、産科・小児科医の不足、病院勤務医の過酷な待遇、疲弊する地域医療の改善など、改革の歪みに配慮するという福田内閣路線の結果だ。
医療費に占める技術料を勘案して、1(医科):1(歯科):0・4(調剤)に案分する原則も堅持され、調剤は0・17%の引き上げとなる。
しかし調剤報酬改定では、全ての院外処方せんにかかる調剤基本料が引き下げられる方向だ。これは後発品の使用促進策に伴うもので、調剤を担当する薬局にも後発品使用を後押しする点数の見直しが行われる。
具体的には調剤基本料を一旦下げ、後発品調剤率30%以上の薬局には別途加算を講じる仕組みで、30%を下回る薬局は現行基本料以下の点数しか算定できなくする。日本薬剤師会は影響が大きいとし、激変緩和措置を求めている。
今回は、4月から始まる後期高齢者医療制度の診療報酬体系も焦点。医療関係者などが連携、情報共有することで外来、入院、退院後と切れ目なく患者を診る体制をつくる方向で点数を設定していく方針。薬剤師による服薬支援が評価される方向となっている。
■抗体医薬めぐり新たな再編劇”協和とキリンの合併が引き金
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今年4月に新生「第一三共」がスタート、10月には「田辺三菱製薬」が発足し、製薬業界の再編は一段落したかに見えた。しかし10月後半に国内中堅の協和発酵とキリンファーマの合併が発表され、業界再編の第二幕が幕を開けた。
協和発酵とキリンファーマの合併は、抗体技術を基にする「グローバルスペシャリティーファーマ」としての姿勢を鮮明にした点で、これまでの再編劇とは明らかに違う方向性が示された。
この合併が火付け役となったかのように、国内大手各社は相次いで抗体医薬の強化を表明した。武田薬品が米国に抗体子会社を設立すると、アステラス製薬も米国のバイオ企業「アジェンシス」を買収して追走。早くも抗体戦争の様相を呈している。
こうした動きに押され、エーザイも米国のバイオ企業「MGIファーマ」を4300億円で買収した。巨額の買収額から、癌領域の強化を進めるエーザイが大きな賭けに出たとの見方が強い。
今秋以降、わずか2カ月間の出来事とは思えないほど、製薬業界は目まぐるしい動きを見せた。それだけサバイバルレースが激化していることの表れでもある。
大手各社は、米国で主力製品が特許切れを迎える「2010年問題」を抱えている。それだけに、今後どのような再編劇が起こっても、不思議ではない状況にきている。
■後発品使用、さらに促進”処方せん様式は再見直し
後発医薬品(GE薬)の使用促進が国策となった。6月に政府方針である「骨太の方針2007」に後発品の使用促進を盛り込み、2012年度までにでGEシェア(数量ベース)を倍増、30%以上にするという目標を掲げた。医療費の伸びを抑制する一方策だが、官民挙げての取り組みに拡大した。
政府方針は、厚生労働省が10月に発表した「アクションプログラム」で具体化。GE薬に対する医療現場などからの不安や苦情に応える形で取り組むべきことを示した点が特徴だ。▽安定供給▽品質確保▽情報提供▽環境整備▽医療保険制度――の5課題について、行政と業界のそれぞれに対し、いつまでにどういう取り組みを行うかを明示した。
また、年1回だった後発品の薬価収載が年2回に改められ、11月に実施された。企業側が収載計画を立てた後の制度変更だったため、今年は6成分11品目の収載にとどまったが、今後は増えていくとみられている。
一方、国は期待したほどに医療現場での使用が広がっていないことから、診療報酬改定の一環として06年度に続いて処方せん様式を再び見直し、原則として後発品を処方する形に改めることにした。そのほか調剤報酬の面からも後発品使用を後押しする。政府は、既定方針である社会保障関連費用2200億円削減に対し、後発品使用の促進で220億円を折り込んだ。
ただし、使用が広がれば後発品メーカー、長期収載品を中心とする先発品メーカーそれぞれの業績を左右する可能性があるし、調剤する薬局・薬剤師の負担も大きくなると考えられる。薬業界は大きな課題を背負わされた。
■医療の原点に立ち返る”大阪で日本医学会総会
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第27回日本医学会総会(会頭岸本忠三氏)が4月608の3日間、24年ぶりに大阪で開催された。
「生命と医療の原点―いのち・ひと・夢」をメインテーマに掲げ、全国から2万5000人が参加した。医療の原点に立ち返り、医学の進歩を人間の幸せや命を守ることへどのように結び付けるかをコンセプトに、各会場で熱心な討論が繰り広げられ、実り多き総会となった。
今回の特徴は、岸本会頭の“Small but excellent”の方針に従い、遺伝子などを駆使した先端医学、疾病・医療を中心とした臨床医学、そして未来の医療像をコンパクトにまとめた点にある。プログラムの質の高さが大きく評価され、今後の総会のあり方にも一石を投じた。
また、社会との連携を重視したプログラムのあり方も見逃せない。その一環として、医療従事者、一般市民それぞれ1万人にアンケート調査を実施。3分の2以上の市民から「現在の医療に満足していない」との回答が得られ、市民に医療制度や医療技術を啓発していく重要性が改めて確認された。
さらに、3月31日から4月8日までの9日間、大阪城ホールを中心に行われた一般向けの企画展示は、36万人の参加者で賑わい、大反響を得たのも総会のトピックとなった。
■不適切な商慣行に訣別”流改懇が緊急提言まとめる
医療用医薬品の流通改善に関する懇談会がまとめた緊急提言・留意事項が、10月に厚生労働省から中央社会保険医療協議会へ提出された。提言では、医薬品卸と川上の製薬企業、川下の医療機関・薬局との取引における問題点を洗い出し、2004年12月の「中間とりまとめ」に比べ、方向性や対応策が具体的に明示された。
川上では一次売差マイナスと割り戻し・アローアンスの拡大傾向の改善、川下では長期にわたる未妥結・仮納入の改善と総価契約の改善が課題に据えられ、それぞれの留意事項が提示されたほか、当事者の基本認識や国の役割も記載された。
これは、医療保険制度下での自由経済取引を維持していくために、「医療用医薬品の循環的サイクル」を十分に認識して、医薬品流通に携わる全ての関係者が、意識改革と行動を起こす必要性を、明確に示したもの。その時期は『今』だと主張、業界には「ラストチャンス」との緊迫感が湧き上がっており、日本医薬品卸業連合会の松谷高顕会長も、「大きな転換期であるとの認識を持つべきだ」と訴えている。
他産業や国民に理解されない未妥結・仮納入、総価取引などの不適切な商慣行に、ピリオドを打つべき時が訪れたとの認識で、緊急提言はまとめられた。実効性を上げるため、流通関係者一人ひとりの行動が注目されている。
■再編進むドラッグ業界”マツキヨも持ち株会社制に
製薬企業、医薬品卸だけでなくドラッグストア業界も、同業他社や異業種との業務・資本提携、合併・買収が進んでいる。今年も最大手のマツモトキヨシが10月に持ち株会社「マツモトキヨシホールディングス」を設立したほか、いくつかの中堅ドラッグの買収もあるなど、再編の動きが活発化している。
持ち株会社体制に移行することで、これまで以上にグループ拡大に向けた提携、M&A等が可能になる。大手では一昨年に「ツルハホールディングス」が、昨年は「アライドハーツ・ホールディングス」が生まれた。マツキヨグループも今回、持ち株会社制に移行したことにより、グループ拡大をさらに推進する構えだ。
中部・関西エリアを中心に積極出店を続けるスギ薬局は9月、北関東で97店のドラッグストアを有する飯塚薬品を買収した。同社はグループビジョンとして2010年度に1000店舗、売上高3500億円を掲げており、中でも400店舗を目標とする関東エリアの動向が気になる。
年末にホットな話題を提供しているのがCFSコーポレーション。10月にアインファーマシーズとの経営統合を発表したものの、CFSの筆頭株主で業務提携中のイオンがこれに反対。来年1月に開かれるCFSの臨時株主総会に向け、両社の委任状争奪戦が繰り広げられている。
登録販売者による新たな医薬品販売制度が、出店競争の熾烈化や異業態を巻き込んだ価格競争に拍車をかけることにもつながる。今後も生き残りを賭けた有力グループの動きが注目される。
- 2006年10大ニュース”新時代への基盤固めた1年
2006年12月26日