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日本製薬工業協会医薬品評価委員会の中島和彦委員長は、本紙のインタビューに対し、施行から10年が経過した新GCPについて、「運用を中心に贅肉体質から筋肉質に変えて、スリムで動きの良いものにしていく時期ではないか」との考えを示した。その上で、「GCPを臨床試験全般に適用することで、臨床試験環境の改善、医療の向上が図られると思う」と述べ、GCPの適用拡大を提言した。
中島氏は新GCP導入を、「日本の治験の質が世界に誇れるようになり、格段に信頼性と透明性を高めたことは大変よい成果」と評価。治験が社会に開かれ、新薬創製に必須のプロセスであるとの認知が広がったことも大きいと指摘した。
一方で現在、GCPの運用面における課題が焦点になっている。これまで製薬協は、契約形態の見直しに関して「治験のあり方に関する検討会」でも強く主張してきたところだが、結果的に見送られた。
中島氏は、「過去に汚職など、治験データの信頼性に影響を与える事件があったのは確か」としながらも、「病院との包括契約、財務状況の開示など、条件を付けた形であれば、治験責任医師との直接契約は可能だと思う」と指摘する。
新GCPでは、原資料の直接閲覧(SDV)が認められ、治験データの透明性、信頼性は大きく前進したと考えられている。しかし、10年が経過してもなお、不祥事への不安感は拭い去られていない。中島氏は、「旧GCP時代の負の部分を払拭できなかったのは残念だが、社会の視線を考えると、ここは我慢せざるを得ない」と理解を示す。
もう一つ、最近叫ばれているのがオーバークオリティーの問題だ。中島氏は、「GCPの厳格運用の方向に振れすぎた結果、その揺り戻しが起こっていて、行き過ぎを是正する方向にあるのだと思う」との認識を示している。
新たな治験活性化5カ年計画では、公的に企業負担の軽減が掲げられるなど、揺り戻しの動きが鮮明になってきており、中島氏も「私たちが様々な場で提言してきたことが、ようやく理解していただける時期になった」と率直に評価する。
またGCPの運用に関して、「思わぬ成果が得られた」というのが医師主導治験だ。当初、製薬協は、医師主導治験に消極的な姿勢を示していた。ところが、自ら治験を実施したオピニオンリーダーの医師らが、声高にGCPの問題点を指摘し始める状況が生まれてきた。
中島氏は「医師の方々が実際に治験依頼者の役割を担われて、初めて企業がこんな不合理なことをやっていたのかと理解してもらえた。医師主導治験の導入は、GCPの問題点を浮き彫りにし、省令改正につながったという意味でも大きかった」と実感を話している。
その上で中島氏は、「臨床試験全般にGCPの網をかけることが大切」との考えを示した。臨床試験全般にGCPを適用することによって、日本の臨床試験・臨床研究環境の改善、ひいては国民医療の向上につながるというものだ。
ただ現状では、現場の医師を中心に反対論が多いのも確か。中島氏は「いたずらにGCPを適用し、意欲的な先生方の実施している臨床研究が阻害されることはあってはならない」とし、「GCPの不合理な部分を撤廃する方向で適用されれば、全ての人にメリットがあるのではないか」と提言する。
さらに、米国のIND(Investigational New Drug)制度、欧州のCTA(Clinical Trial Application)制度のように、規制当局による臨床試験の一元承認審査制度の検討も課題に挙げた。
中島氏は、「現行制度では、申請後にプロトコールの妥当性を見るという逆立ちしたシステムになっている」と指摘。「治験開始時点で当局が内容をチェックすることになれば、究極のセントラルIRBの役割にもなる。その意味でも合理化ができると思う」としている。