制御性樹状細胞の臨床応用に向けた研究が進んできた。既に、敗血症に対する基礎的な成果が得られているが、造血幹細胞移植時の移植片対宿主病(GVHD)や、アレルギー喘息に対しても有望であることが、病態モデルマウスを使った実験で明らかになった。研究は、佐藤克明氏(理化学研究所免疫・アレルギー科学総合センター樹上細胞機能研究チーム)らが進めているもので、佐藤氏らは今後、制御性樹状細胞の免疫疾患への臨床開発を進めると共に、制御性樹状細胞に存在する免疫調節分子をターゲットした、分子標的治療の開発に取り組んでいく予定だ。
樹状細胞は抗原提示細胞として知られ、病原微生物や癌などの「非自己」抗原提示して、獲得免疫応答の誘導やサイトカインを介した自然免疫応答の活性化に働いている。その一方、定常状態では、未熟樹状細胞は「自己」に対する免疫寛容を誘導する免疫寛容誘導性抗原提示細胞として、免疫学的恒常性の維持にも関与していることが明らかになっている。
佐藤氏らは、そうした免疫寛容誘導能に着目して樹状細胞を改変し、炎症環境でも強力な免疫寛容誘導能を示す抗原提示細胞として、2003年に「制御性樹状細胞」を開発し、研究を進めてきた。制御性樹状細胞を用いたこれまでの研究から、マウスではT細胞機能を調節し、自己免疫病や移植拒絶反応を阻止する効果があることが分かっており、敗血症や急性GVHDモデルマウス実験で、疾患の制御にも成功している。
その新たな治療応用として、アレルギー喘息と慢性GVHDについて研究が進められた結果、制御性T細胞の誘導を介して、明らかな治療効果が得られることが分かった。
アレルギー喘息については、[1]アレルギー抗原として卵白アルブミン(OVA)吸入した正常マウス[2]OVA吸入したマウスに免疫強化剤水酸化アルミニウムゲルを投与した免疫マウス[3]この免疫マウスに制御性樹状細胞を3回投与した細胞投与マウス””を作製して、比較検討が行われた。
その結果、正常マウスではOVAを吸入してもアレルギー性喘息は発症しなかったが、免疫マウスは気道組織の炎症像や好酸球増加、気道抵抗性が顕著に認められ、喘息症が出現した。
それに対して、制御性樹状細胞投与マウスでは、OVA吸入による気道組織炎症像が著しく軽減し、好酸球増加や気道抵抗の上昇が完全に抑制されるという成績が得られている。その機序を特定するために、脾臓中の免疫細胞の割合を測定した結果では、制御性樹状細胞細胞投与マウスでは制御性T細胞が正常マウスと比較し、約3倍増加していた。制御性T細胞の分子マーカー抗CD25抗体を投与して、制御性T細胞を除去したところ、その治療効果が著しく低下することも確認されている。
これらの成績から、佐藤氏らは「細胞性樹状細胞のアレルギー喘息に対する治療効果は、制御性樹状細胞により誘導された制御性T細胞が、アレルギー抗原特異的なTh2細胞の活性を抑制することによって、効果を現している」としている。Th2細胞の活性を抑制するということでは、アトピー性皮膚炎など、喘息以外のアレルギー疾患の治療にもつながる可能性が期待される。
一方、GVHDの実験は、放射線照射したレシピエントマウスに異系ドナーマウスの骨髄を移植後、[1]未処置マウス[2]免疫抑制剤ラパマイシン投与マウス[3]制御性樹状細胞投与マウス””の3群に分けて比較検討した。
その結果、未処置、ラパマイシン投与群は、いずれも9割程度のマウスに重症の慢性GVHD発症が認められたのに対し、制御性樹状細胞投与マウスは2割程度にとどまることが分かった。また、GVHD発症を発症したとしても重症度は著しく低かった。さらに、アレルギー喘息での研究と同様に、抗CD25抗体投与して制御性T細胞を除去すると、治療効果が著しく低下することも確認している。
それらの成績から、佐藤氏らは「制御性樹状細胞の慢性GVHD治療効果は、制御性樹状細胞で誘導されたドナー由来の制御性T細胞が、異系反応性ドナーT細胞の活性を阻害する効果によるもの」としている。
ヒト制御性樹状細胞も、試験管内でマウス制御性樹状細胞と同じ免疫機能を示すことが既に報告されており、アレルギー喘息や慢性GVHDで得られた成果は、画期的な治療法の開発にもつながりそうだ。佐藤氏らは今後、その分子機構をさらに解析し、分子標的治療の開発を進めることにしている。