院外処方箋に検査値を表示する病院が増えている。ブームの火付け役となった京都大学病院が取り組みを開始してから約2年。実際に、表示した検査値を薬局薬剤師が疑義照会に活用した事例がいくつかの地域で出てきた。これは医薬分業の有用性を示すデータにもなる。この結果をもとに、検査値表示がさらに全国に広がることを期待したい。
京都大学病院が、院外処方箋を発行する全ての外来患者を対象に検査値表示を開始したのは2013年10月。院外処方箋の様式をA5からA4に変更し、院外処方箋の下部に、腎機能や副作用などの指標になる13項目の検査値を表示した。
14年の1年間に発行した院外処方箋29万1536枚のうち、薬局薬剤師の疑義照会によって処方変更に至った件数は5097件(1.75%)。そのうち検査値を利用した変更は59件あった。
同院教授・薬剤部長の松原和夫氏は「患者さんの不利益を防止できた事例が1例でもあればそれで十分だと考えていた。実施するとこれだけの件数があった。十分に効果はあったと思う」と振り返る。
腎機能に応じて投与量を調整した事例が最も多かった。検査値の推移を薬局薬剤師が時系列で把握し、検査値は正常範囲の下限値であっても、副作用の重症化を未然に防止できた事例もあった。
14年1月から開始した京都府立医科大学病院も、薬局薬剤師へのアンケート調査を通じて役立った事例を把握。検査値表示が「疑義照会や処方変更につながった経験がある」との声を得ている。
京都府薬剤師会は、検査値に基づいて疑義照会を行った事例を収集、共有化している。副会長の渡邊大記氏は「意識の啓発にもすごく役立っている」と語る。検査値が表示された院外処方箋を日常的に応需していない薬局の薬剤師も、検査値を意識するようになってきたという。
14年10月から開始した千葉大学病院も、禁忌症例への投与回避、腎機能に応じた投与量の変更など、検査値が処方変更に役立った多数の事例を把握している。
検査値表示が処方変更につながり、不利益回避に役立つことが各地で実証されてきた。それだけでなく、疑義照会や処方変更に至らなかった場合でも、検査値をもとに薬局薬剤師が処方鑑査を行い、安全性の確保を向上させていることは大きなメリットだ。
一方、京都大学病院、千葉大学病院に共通する課題は、近隣薬局とそうでない薬局の疑義照会率に差があることだ。どの薬局でも一定水準以上の疑義照会を行えるように、改善が望まれる。
近年、院外処方箋に検査値を表示すること自体が注目されてきたが、関係者の関心は今後、その効果に移っていくことだろう。役立った事例を各地で積み重ね、それが他病院での検査値表示開始を後押しするという、より良い循環を生み出してほしい。