抗加齢医学は、「最後の瞬間まで元気に過ごす」ことの実践を目的とする新しい学問であり、その範疇は幅広い。予防だけでなく根本的治療も含んでいるのが特徴だ。さらに、高齢者においては、低侵襲で副作用が少なく、有効性の高い高分子標的治療の実現にも及んでいる。
近年、老化の分子機構もかなり判明し、アンチエイジングに関する興味が非常に深くなっている。今後は、抗体医薬のみならず、遺伝子治療や再生医療、ペプチド医薬、ワクチンといった次世代、次々世代の医療が、高齢者の特質を理解しながら形成していくものと予測される。
こうした中、「抗加齢医学の発展には、疫学で得られた検討結果を遺伝子多型などによって科学的に検証する手法が不可欠である」と指摘する関係者の声が多い。
実際、疫学で得られた検討結果を遺伝子多型などにより科学的に検証できた具体例には、葉酸の骨折予防効果の同定がある。
葉酸欠乏ならびにその代謝物である血中ホモシステイン値の増加が、脳血管障害、認知症、骨折を増大する疫学結果が示され、これを科学的に検証することで、葉酸の抗加齢効果が証明されている。
米国では1998年以降、穀類への葉酸の添加が義務づけられ、それ以降、脳血管障害による死亡率の急速な低下が報告されている。また、メタ解析においても葉酸補充が脳血管障害発症リスクを約20%低下させることが判明している。
わが国でも、東京大学医学部老年病科のグループが、日本人の閉経後女性を対象に、統計学的に再現性のあるデータから骨量を規定する遺伝子として同定し、発現制御ならびに機能解析を行うことで、筋肉と脂肪細胞の分化を制御するPrdm16遺伝子を見出した。
また、国立長寿医療研究センターの老化に関する長期縦断疫学研究でも、CRP遺伝子多型、BDNF(脳由来神経栄養因子)遺伝子多型が、個人での認知機能低下リスクを予測する因子の一つであることを明らかにしている。
一方、疫学結果では、久山町(福岡県)地域住民における認知症の研究報告が注目されている。88年に久山町の循環器健診を受診した認知症のない高齢者約1000人を15~17年間前向きに追跡した調査成績表を用いて、危険因子と認知症発症の関係が検討された。その結果、糖尿病が認知症発症に大きく関与していることが分かり、特に、食後高血糖と認知症の相関関係が強かったという。
さらに、中年期高血圧、喫煙、遺伝的因子(APOE-ε4、PICALM)も、認知症発症の有意な危険因子であることも判明した。
食事パターンと認知症発症については、豆腐、野菜、牛乳を中心とした食習慣や定期的な運動習慣を有する人は、認知症発症のリスクが有意に低かった。
今後、これらの疫学調査結果を活用した科学的検証が進み、抗加齢医学のさらなる発展が健康長寿社会実現に寄与することを期待したい。