安倍首相の突然の辞意表明で、次の首相の政治姿勢は医薬業界、医療界にも影響を与える可能性がある。小泉前首相から敷かれてきた政府の経済成長戦略路線の中で、「1丁目1番地」ともてはやされている医薬産業に対しては、向かい風になってくるのではないかとの見方も出始めている。
中でも医薬産業政策は、官邸、政府の方針の元で進められてきた。そのため首相交代で影響が出かねない状況となっている。
12日の安倍首相の辞意表明後、日本製薬団体連合会の森田清会長、日本製薬工業協会の青木初夫会長は共に「残念」と肩を落とした。今後については共に、革新的医薬品創出の5カ年戦略などの諸施策の継続を求めた。
その中で青木会長は、財政再建と経済成長を車の両輪とした路線は、「変わらない」との見方を示した。製薬協幹部も、日本の財政など諸環境を踏まえると、「どう考えても変えようがない。成長にはモノづくりが必要で、資源がない日本では知的集約型産業が必要で、その一つが薬だろう。時代の要請だ」と強調した。
医薬産業政策を担う厚生労働省医政局経済課の武田俊彦課長は、先行きが見通せない不安を見せながらも、経済成長戦略の修正がなされようとも、「ネタは医薬ぐらいしかない」と期待をのぞかせる。
しかし厚労省のある幹部は、「こういう時、官邸、政府の力が弱まると、官の力が強まる。ということは財務省の力が強くなる」と指摘。首相によっては官邸主導の象徴である経済財政諮問会議の弱体化もあり得ることなどから、「業界もいろいろ(提案して)攻めてきたようだが、そろそろ守ることも考えないといけないのではないか」と話す。この指摘を業界側にも認める声がある。
政府のイノベーション推進を追い風に仕事をしてきた同省のある職員は、「安倍さんがいなくなったことで、イノベーションだなんて浮かれていられなくなる。予算要求も特別枠を使って要求したけど、医薬にどこまで向いてくれるか。財務省の査定は厳しくなるかな」と、こぼした。
また省内には、社会保障関係予算の2200億円削減財源の一つである被用者保険の財政調整もまだ流動的なことから、その煽りで来年度の診療報酬や薬価への切り込みも強まる可能性を指摘する声もある。