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ED(勃起不全)治療薬をはじめ正規品と見分けが難しいニセ薬が世界的な問題になっている中、原薬のニセモノも出回っている。最近報道された有害物質が混入したかぜ薬で大量の死者が出たケースも問題の一つだ。しかし、どの程度の広がりが出ているのか情報があまりない。世界の製薬企業でつくるニセ薬問題を扱う国際組織「PSI」(ファーマシューティカル・セキュリティ・インスティテュート)が情報を交換しあっているが、機密情報も含み、あまりオープンにしていないという。そこでPSIの許可の範囲で、PSIに参加している日本製薬工業協会国際委員会の戸田健二委員長(エーザイ常務執行役)に偽造原薬の現状と課題を話してもらった。「日本も油断ならない」と強調する。
全容は不明 押収も「氷山の一角」
実は戸田氏も、原薬のニセ薬を知ったのは3月に英・ロンドンで開かれたPSI総会。ヒースロー空港の税関担当者から「最近、原薬のニセモノが持ち込まれるようになっている」との報告だ。戸田氏は品質担当役員の経験がある。この問題の大きさが分かり、衝撃を受けた。
「100kgの偽造原薬が取り引きされれば、薬にもよるが、製剤では100万錠単位に当たる。国際レベルで取り引きされているとなれば、膨大な量が出回る。健康被害も広まる」。4月には日本での講演で問題の一端を話し、注意喚起した。
直後、2006年にパナマで、経口摂取すると有害なジエチレングリコール(DEG)が混入したかぜ薬が原因で100人が死亡した事件やDEGが混入した中国製歯磨き粉が見つかったことが報道された。DEGは本来含有されていないはずの物質である。
PSIでは他の様々なケースも報告されており、偽造原薬の大半は中国製と見ているという。
戸田氏によると、その中国の発表では、1カ月だけで約200kgのED治療薬原薬が押収されたケースもあった。ある世界トップ級大手企業では、期間は明示されていないが、その会社分だけで2000kgを超える偽造原薬の押収を確認している。
また、ロシアを含むCIS(独立国家共同体)では03年以降、偽造原薬で摘発・押収されたのは17件(量は不明)。うち性尿器系治療薬向け(ED治療薬など)12件、心血管系治療薬向け2件、抗生物質向け2件、中枢神経系治療薬向け1件。ソースは中国が13件で、次いでトルコ、インドなどが続く。
戸田氏は、「どの程度流通しているのか全容は分かっていない。押収は氷山の一角」と話す。
精巧な偽造 ケースは様々
偽造とはどんなものだろう。PSIは、この問題で協力関係にあるWHOの定義である「意図的に不正表示( identity and/ or source)がなされたもの。成分は正しく含有されているが包装が偽造であるもの。一般的に、有効成分が含まれていないもの、含まれているもの、量が正しくないもの、ニセ包装などが含まれる」を準用している。
精巧に偽造された製品ラベル、分析証明書、査察証明書を貼付した製品。同一ロットとみせかけて、一つ一つの容器で成分含有量に大きなバラツキがあるもの。正規品と同量の成分が入っているもの――など様々なケースがあるという。
たとえ正規品と同量の成分だとしても戸田氏は「入っていればよいというものではない。不純物が入っていたり、物性が異なったりということがある」と言い、なかなか巧妙だ。
不十分な日本のチェック体制
日本では製剤のニセ薬は、規制や卸による正規流通網がしっかりしていることなどから、極めて入り込みにくいといわれる。しかし、インターネットによる売買が抜け道となっている。
果たして偽造原薬はどうか?。戸田氏は「油断ならない状況にある」と指摘する。
「同一ロットのものが、いくつもの容器に入れられて送られてくるが、受け入れの際に日本では一つだけ取り出して中身を確認すればよいことになっている。しかし、一つ一つの容器で成分含有量にバラツキがある場合、それではチェックできない」。日本のチェック体制は不十分だとし、輸入相手国によって全数検査や統計的に確立された方法による検査を求める。
原薬を含めニセ薬への企業レベルの対策も「知的財産担当者だけでは手は出ない」。製造・流通にはマフィアが絡んでいることもあるためで「警察出身者の配置や捜査当局との連携をしながら進めることが大切」と話す。
戸田氏は警告する。
「原薬は、製剤に比べ低コストで製造できる。ラベルの偽造もたやすい。今後も偽造原薬の流通は活発化するだろう。PSIもそう見ている。製薬・原薬企業、流通業者、関係団体は相当注意レベルを上げる必要がある」
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