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RunxがT細胞でのインターロイキン‐4(IL-4)の産生を抑制していることが、理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター免疫転写制御研究チームの谷内一郎氏らによって突き止められた。IL-4はB細胞に働いて、IgEを産生するB細胞に分化させることが知られており、Runxの活性化などを通して、IL-4産生を抑制することができれば、IgEに由来するようなアレルギー性疾患の治療につながるのではないかと期待されている。成績は、米国科学雑誌「The Journal of Experimental Medicine」に掲載された。
アレルギー疾患の成因をめぐっては、細胞性免疫を司る1型ヘルパーT細胞(Th1)と、液性免疫を司る2型ヘルパーT細胞(Th2)の「バランス説」が提唱されている。Th2系ヘルパーT細胞数の比率が増えると、IgE抗体をはじめ、好酸球などが活性化され、アレルギー性炎症の発症に結びつくと捉えられている。特に、Th2細胞から産生されるIL-4は、IgE産生B細胞への分化に働いていることから、アレルギー疾患を誘発するキー分子となっている。しかし、IL-4の産生を制御するメカニズムについては充分分かっていなかった。
研究チームでは、その機序を明らかにしようと、特に同じT細胞でありながら、なぜTh1細胞ではIL-4が産生されないのかについて研究を行った。
着目したのは、CD4(細胞の表面に存在する抗原マーカーの1つ)遺伝子の発現抑制に働くことが知られている転写因子のRunx。その機能を調べようと、遺伝子操作を使ってT細胞特異的にRunx転写因子の機能を破壊したマウスを作製した。その結果、このマウスでは血中のIgE濃度が高く、肺には細胞が浸潤した炎症像がみられ、ヒトの喘息とよく似たアレルギー疾患を自然発症することが分かった。
原因を調べた結果、Runx転写因子が機能しないT細胞を持つマウスでは、Th1細胞からもIL-4が産生されてしまうため、喘息様のアレルギー疾患が発症してしまうことを突き止めた。
そこで、Th1細胞ではなぜIL-4が産生されないのかの機構を調べたところ、Runx転写因子がIL-4遺伝子の発現を抑制するサイレンサーという領域に直接結合して、Th1細胞でのIL-4の産生を抑制していることを見出した。
一方、Th2細胞では、なぜRunx転写因子がIL-4サイレンサーに結合しないのかについても調べられた。検討は、Th2細胞でのみ発現し、Th2細胞で重要な機能を持っているGata-3といわれる転写因子に着目し、Th1細胞にGata-3を発現させる方法で行われた。その結果、Gata-3の発現によってRunx転写因子とIL-4サイレンサーの結合が解除され、Th1細胞からIL-4が産生されることが分かった。その成績から、研究グループでは「Th2細胞では、Gata-3が発現することで、IL-4サイレンサーの機能を抑制し、IL-4が産生されることが明らかになった」としている。
研究成果を踏まえて、研究グループでは「Runx転写因子が中心となってIL-4サイレンサーの機能を制御することにより、IL-4遺伝子の発現が制御されるメカニズムが明らかになった」とし、「IL-4産生抑制の分子標的が明らかになったことで、従来のアレルギー疾患治療薬と異なる新規の薬剤開発につながる」と、今後の研究の進展に期待を寄せている。
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