■特許期間の新薬は価格維持を”長期収載品への依存から脱却
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日本製薬団体連合会が、1日の中央社会保険医療協議会薬価専門部会に提出した薬価制度改革案。特許期間中の新薬価格維持を求める代わりに、特許切れ後は長期収載品に依存しない経営が求められる内容だ。案の策定までには、業界内部、厚生労働省、それぞれの間で様々な思惑が錯綜した。1日の部会では、中長期的に導入を求める案で切迫感に欠けたためか、委員からの質問は少なく、議論は肩すかしを食った格好だが、長期収載品に経営を依存する企業が少なくない業界にとっては、ほぞを固めた提案と言えよう。
■新薬評価を制度の柱に
日薬連の制度改革案は、日本製薬工業協会の案がベース。政府がイノベーションを軸とした経済成長戦略を打ち出し、その中で製薬産業が筆頭に掲げられたことから、製薬協は新薬の評価を軸に置いた新制度案を検討してきた。
製薬協が新制度案を発表したのは7月11日(公表案)。しかし、本紙など一部で報道された通り、6月13日に内々に会員社に説明した案(6月案=非公表)が別にある。両者を比べると、公表案では数値面の記述がなくなっている。
6月案では、特許期間中の新薬価格維持の仕組みは、薬価調査の結果、平均納入価格が償還価格に対し7%以内の下落に収まっていれば薬価改定からは除外する。一方、後発品発売後の初回の薬価改定時には、当該先発品の償還価格を最大で5割引き下げ、改定は年1回実施する。それで財政中立を保つという内容だ。
それに対し公表案では、考え方こそ変わらないが、新薬価格維持では「特許期間中もしくは再審査期間中の医薬品(中略)について、価格改定の対象より除外する」。後発品発売後では「先発品価格を一定幅引き下げる」とし、年1回改定は「実施する」から「考慮する」に修正した。
6月案は、検討中心メンバーの出身会社が、武田薬品はじめ大手4社だったことから、業界内には「製薬協案ではなく4社案だ」などの囁きもあり、大手に有利だと不満が出ていた。そのため、修正したのは会員社の反発に配慮したためと思われたが、「理事会で反対は出ていない」(製薬協)という。
修正には、日薬連、厚生労働省医政局経済課が絡む。日薬連の森田清会長は、製薬協案の考え方には賛成だが、財政中立論は新薬評価とは関係なく、財政中立ありきでは、新薬に高い値がつけられる反動で、必須医薬品などの価格に悪影響が出かねないなどと強い懸念を持っていた。新薬の価格づけの運用が見えない中で、長期収載品の引き下げ幅を最大5割と打ち出すことにも難色を示していた。年1回改定にも反対の意向だ。
厚労省の武田俊彦経済課長は、ひとり歩きしかねない数値の盛り込みを懸念、現行薬価制度上では不可欠な中医協の関与が、6月案で触れられていないことに疑問を呈していた。ただ、財政中立は財政面から必要という立場だ。
■削除された具体的数値
それらを踏まえて策定されたのが7月の公表案。中医協の関与については、薬価は「中医協が承認する」と明記、中医協での議論の俎上に載せやすくなった。
公表案は、公表前日の7月10日、薬価制度に関する「官民対話」(非公開)で、日薬連の森田会長、製薬協の青木初夫会長ら業界団体幹部から、柳澤伯夫大臣はじめ厚労省幹部に説明された。大臣は「厳しい覚悟のある提案」と発言。水田邦雄保険局長は試算する旨を表明した。
しかし、この時点は日薬連が業界案を別途検討している途上。その中にあって傘下の製薬協案が説明された。日薬連保険薬価研究委員会、製薬協の幹部は「官民対話は革新的新薬の創出が狙いであり、それを担う製薬協案は説明していい」と釈明したが、大臣からは「業界案」と受け止められる。
ここには中長期的な新制度案は、製薬協案で行くという意志が厚労省にあったと推測できる。というのも厚労省の武田経済課長は、製薬協が6月案をまとめた翌14日の日薬連保険薬価研総会であいさつし、次のように発言しているからだ。
「基本的に業界からこういう意見が出るであろうということは、これまでずっと議論されていたので、そういった内容と異なる話が出てくると失敗してしまうこともある」
製薬協案を後退させる圧力を、牽制したものと受け止められている。その後、一部修正された7月の公表案に対し、こう評価した。
「よくぞ言った。かつてなく分かりやすい。イノベーションの観点から良くできた案」
だから、7月の官民対話で大臣への製薬協案(公表案)説明をお膳立てしたとみることもできる。加えて同席した欧米製薬団体に、製薬協と足並みを揃えさせる力になるとの読みもあった。
しかし、日薬連の森田会長が同案に一部納得していないことが、7月23日のインタビュー記事で明らかになる。事は大臣説明の後だけに、厚労省、製薬協の幹部からは「なぜ今になって」と困惑した声が漏れた。
■財政当局の見方がカギ
さらに日薬連内部で大詰めの検討が行われ、1日の中医協に提出された。制度改革の骨格は製薬協案のままだが、表現はさらに抽象的になった。
「(特許または再審査期間中にある新薬の価格は)、通常の薬価改定方式を第一義的には適用せず、通常より緩和された一定の条件下で薬価引き下げを猶予した上で、当該期間が満了し後発品が上市された後に、改定を猶予した累積分等を引き下げることとする」
「引き下げを猶予」は、現行制度の市場実勢価主義から外れているように読める。市場実勢価格が薬価を下回っても、引き下げない仕組みだからだ。この“猶予”について武田経済課長は、「財源が先送りされ、財政当局が受け入れるのは難しいのではないか」と話す。
一方、製薬協幹部は「『一定の条件下で』に着目してほしい」とし、6月案の「7%以内の下落範囲に収まっていれば薬価改定からは除外」を想定していることを明かすと共に、仮に7%を調整幅のようなルールにするなら、現行制度と類似しており、市場実勢価主義からは外れていないと説明する。
様々に解釈できる文章となった。
1日のヒアリングでは制度改革案をめぐる質疑が少なく、「聞き置かれた」(業界関係者)との見方もされている。しかし、日薬連の制度改革案で骨格をなす製薬協案を、厚労省は評価している。業界の制度改革案は動き始めたといえる。