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【アディポネクチン】脳では食欲増進に関与‐抗肥満薬開発の期待も

2007年07月18日 (水)

門脇教授
門脇教授

 肝臓や骨格筋では脂肪燃焼やインスリン抵抗性改善作用があるアディポネクチンが、脳では食欲増進に働いていることを門脇孝氏(東京大学大学院糖尿病・代謝内科教授)らのチームが突き止めた。アディポネクチン受容体が脳でも発現していることは既に分かっていたが、どのような働きをしているのかは十分に解析されていなかった。門脇氏らの研究では、従来のアディポネクチンの作用とは正反対の作用を示す結果が得られており、今後、脳内のアディポネクチン受容体を標的とした抗肥満薬の開発などが進みそうだ。

 アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌されるホルモン。これまでの研究から、血中では高分子量(12018量体相当)、中分子量(6量体相当)、低分子量(3量体相当)の多量体として存在することが確認されている。また、その作用機序を調べた結果では、多量体のアディポネクチンが、それぞれ肝臓と骨格筋に働いて、糖の取り込みや脂肪酸の燃焼を起こすキー分子のAMPキナーゼを活性化することが分かっている。

 AMPキナーゼの活性化は、肝臓では糖の新生を抑制して脂肪の燃焼に、骨格筋では糖を取り込んで脂肪の燃焼に働いている。そうした急性的な効果に加えてアディポネクチンは、脂肪酸燃焼やエネルギー消費を調節しているPPARγを活性化することが分かっており、これらの作用が相まって肝臓と骨格筋で中性脂肪が低下し、インスリン抵抗性を改善することが知られていた。

 既に、その受容体も門脇氏らによって二つのサブタイプ(AdipoR1、AdipoR2)が単離・同定されている。その分布を調べたところでは、AdipoR1は骨格筋をはじめ多くの組織に、AdipoR2は肝臓に豊富に発現し、血管やマクロファージにも両受容体の発現が認められている。また、脳でも両受容体が発現していることが知られていたが、それがどのような働きをしているかについては分かっていなかった。

 そのため門脇氏らは、脳内のアディポネクチン受容体の分布やアディポネクチンの作用について検討した。その成績では、アディポネクチン受容体は視床下部の弓状核に発現が認められ、特にAdipoR1は食欲を抑えるレプチン受容体とほぼ同じ部位に存在していることが分かった。

 また、絶食時と再摂食時の血中及び髄液中アディポネクチン濃度を調べたところでは、絶食時にはAdipoR1の発現が有意に上昇し、再摂食によって低下する結果が得られている。その作用を調べるために、マウスを用いてアディポネクチンを静注する実験も行われた。その結果では、生理食塩水を静注した場合に比べ、摂食量が増えると同時に、エネルギー消費量が減少し、体重増加を引き起こす状態になった。逆に、アディポネクチンを欠損させたマウスでは、摂食量の低下や酸素消費量の亢進が認められている。

 そのため門脇氏らは、アディポネクチンには飢えに備えて脂肪を蓄え、エネルギーの消費を減らす「倹約遺伝子」の機能があると分析している。特に、レプチン受容体と同じ部位でアディポネクチン受容体の発現がみられることから、相互に影響することによって、摂食調節に働いているのではと考えられている。

 さらに、二つのアディポネクチン受容体のうち、どちらが食欲増進に中心的な役割を果たしているかについても検討された。二つの受容体それぞれに対するsiRNAを弓状核に投与し、受容体発現量を低下させた成績では、アディポネクチンによるリン酸化AMPキナーゼの増加が、AdipoR2siRNAを用いたマウスでは変化がみられなかったのに対し、AdipoR1siRNAを用いたマウスでは減少して、アディポネクチンを投与しても摂食量が増加しないという結果が得られている。そのため、AdipoR1を介したシグナルが、食欲増進に働いているとみられている。

 アディポネクチンは血中では多量体として存在しているが、これまでの検討から、高分子量のアディポネクチンは中・低分子量のアディポネクチンに比べて、著しく細胞膜表面への結合性が高く、AMPキナーゼ活性化能に優れていることが分かっている。実際、門脇氏らの検討では、肥満の進行に伴って高分子型のアディポネクチンが低下するのに対し、中・低分子量のアディポネクチンは減少しないことが認められている。そのため、肥満時には活性が高い高分子量のアディポネクチンが減少することで、エネルギー消費が低下すると共に、メタボリックシンドロームや糖尿病を引き起こしやすくなると考えられている。

 門脇氏はそれらの研究結果をまとめて、アディポネクチンの脳内での働きは脂肪を蓄え、エネルギーの消費を減らすという「これまでの印象とは正反対の知見となった」とし、「脳内でのみ特異的に(AdipoR1に)作用する物質を創製できれば、新規の抗肥満薬として期待できる」と述べた。

 具体的には、脳で拮抗薬、肝臓や筋肉で作動薬として働く化合物、脳でのみ作用する物質と結合させたAdipoR1拮抗薬、脳内にのみ存在する受容体を阻害する化合物、血中の高分子量のアディポネクチンのみを増加させる化合物の創製が期待されるとしている。

 ただ、「脳内で発現しているアディポネクチン受容体は、構造の一部が違う可能性がある」とし、そのスクリーニングが今後の検討課題の一つだとした。



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