東北薬科大学が医学部新設構想を発表した。東日本大震災の影響で深刻化した東北地方の医師不足解消が目的だ。
地域医療・災害医療に貢献する医師の養成を目指すが、薬学教育・研究の機能を生かし、医薬品・薬学の専門知識と実践能力を併せ持った医師の養成にも取り組む。複数の薬剤を服用することが多くなる高齢者の医療ニーズにも合致しているともいえる。
将来的には、医学部専用のキャンパスを新設。臨床実習には、附属病院や連携病院を活用する。附属病院は、全面的な建て替えも予定しており、トータルで約230億円の費用を要する一大プロジェクトだ。
厚生労働省の2010年医師・歯科医師・薬剤師調査結果によると、都道府県別の人口10万人当たりの医師数は宮城が210・4人で全国28番目。他の東北5県も全国平均を下回っており、医師確保は急務といえる。
医学部の新設は、医師が供給過剰になるとの予測を踏まえ、1979年の琉球大を最後に認められていない上、03年の文科省告示には医学部を新設しない方針が明記されており、障壁が大きい。
しかし、宮城県の村井嘉浩知事の要請を受けた安倍晋三首相が復興支援のため、東北地方への医学部新設を検討するよう下村博文文科相に指示したことで、流れが大きく変わりつつある。
下村文科相は、東北地方に設置する医学部は1カ所とすることや、設置主体や場所、附属病院の体制など関係自治体が一つにまとまることなどの条件を示したが、宮城県では、11年に仙台厚生病院が東北福祉大学との連携を視野に医学部新設の構想を発表しており、誘致合戦が本格化する兆しを見せている。
教員となる医師の確保は、最大の課題と言っていいだろう。東北薬大は入学定員100人に対して、147人の専任教員が必要と見込むが、東北各地の医師を教員や診療スタッフにすることで、さらなる医師不足が生じてしまっては本末転倒だ。下村文科相も医学部新設の条件に東北各地から医師を集めないことを挙げている。
医学部の新設に対しては医師会などの抵抗も強い。宮城県医師会は、東北の基幹病院からの勤務医引き抜きを懸念すると共に、被災した県沿岸部の医師数が震災前の状態に回復していることなどを理由に反対する姿勢を示している。
政府が国家戦略特区で進める規制緩和の検討項目にも医学部新設が盛り込まれたものの、臨時国会に関連法案を提出する必要がある上、国が医学部設置を容認するには、文科省告示の見直しや、新たな大学設置基準の策定なども必要になるため、新設に向けた検討はまだ入り口の段階。東北薬大が目指す2015年度の開設は未知数だ。
医学部新設には、多くの障害があるが、震災からの復興という理念により、その機運は高まりつつある。実現すれば、薬科大学としては初めてとなるだけに、期待は高まる。今後の検討の推移を見守りたい。