■薬大新設・増設には危機感
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厚生労働省の「薬剤師需給の将来動向に関する検討会」の初会合が28日、省内で開催された。初会合で厚労省は、薬剤師数の推移や学生の就職動向などの基礎データを示し、薬剤師を取り巻く最近の情勢を説明、これを踏まえて各委員が意見交換した。6年制導入や改正医療法等によって、薬剤師の業務が拡大していくとの指摘がある一方で、薬科大学・薬学部の新設・増設傾向によって起こる薬学部の定員割れが、薬剤師の資質に重大な影響を及ぼすなどの意見もあった。なお座長には、井村伸正委員(日本薬剤師研修センター理事長)が選出された。
同検討会では、[1]薬剤師が従事する職域の実態および将来の需要予測[2]薬剤師入学定員数の状況を踏まえた薬剤師の供給予測[3]需給動向が薬剤師・薬学生の資質に与える影響等の考察――を検討事項として掲げている。
初会合で厚労省が示した資料の中で、業種別の薬剤師数の推移をみると、薬局従事者が継続的に増加しているのに対して、大学従事者、行政従事者は微増、病院・診療所従事者や医薬品関連企業従事者は大きな変動がない状況である。また、学部卒業生の就職動向の面では、以前は「企業」や「病院・診療所」が多かったが、最近では「大学」や「薬局」が多くなってきている。また、ここ数年の薬科大や薬学部の増設によって、特に私立大で入学定員数・入学者数が急増している。
意見交換で木俣博文委員(日本医薬品卸業連合会理事)は、「企業の合併や統合などにより、卸業にかかわる薬剤師は減少している。今後、合併や統合が進むことも予想され、残念ながら薬剤師の必要数は減っていくのではないかと予測している」と話した。
小田兵馬委員(日本チェーンドラッグストア協会副会長)は、「6年制導入や医療法改正などで薬剤師の果たす役割への期待が高まっている。予防、在宅、受診勧奨などの面で薬剤師は必要になる。薬剤師の仕事を広げられるチャンスであり、これに対応して良い仕事をしていけば社会的充実感を得られ、業務も広がっていくのではないか」との考えを述べた。
神谷晃委員(山口大学病院副病院長)は、東京や大阪などの大都会と地方との違いに触れ、「地方では圧倒的な薬剤師不足の状態にある。全国的な状況、都会の状況、地方の状況の違いなどを踏まえた議論をしてほしい」とした。さらに、「病院内の薬剤師業務が拡大しているが、薬剤師を雇えずに十分な仕事をできていない現実もある。業務が拡大しても、それを担う人材が不足しているのが地方の苦しい現状だ」とも述べた。
高柳元明委員(東北薬科大学理事長・学長)は、私立大薬学部の入学試験の現状に言及した。近年の薬科大・薬学部の新設や増設などで、入学定員数が急増したことを挙げ、「今年度は私立大学の5校に1校が定員割れを起こしている。このような状況をみると、将来、薬剤師の資質を保てるのかどうかという面で強い危機感を持っている」と話した。
この点に関して中西敏夫委員(日本薬剤師会会長)は、「定員割れの状況では、薬剤師の質の低下が起こるのは間違いない。薬剤師の質を上げるために6年制を導入したにもかかわらず、質の向上を期待できないという、社会的にも危機的な状況になることを危惧している」と話した。