日本製薬工業協会が2011年3月に公表した「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」の全面実施が1年先送りされることになった。「原稿執筆料等」の個人名、件数まで公開することに対し、日本医師会等の医療側が反発したことが要因で、最終的に13年度は製薬企業が支払った総額と医師名の一覧までを開示し、14年度から個人名等を全面開示することになった。
全面公開の先送りを主導したのは、今年に入り日医が中心になって立ち上げた「医学関連COI問題協議会」である。日本医学会、全国医学部長・病院長会議、日医、製薬協が参加し、透明性指針を再検討するという趣旨だったが、非公開で開催された上、結果的に全面公開にブレーキをかける役割を果たした。
なぜ今月の実施直前になって、こんな混乱が起こったのか。医療側は、個人名を公開することで思わぬ誹謗中傷を受けると主張し、個人情報保護を問題にした。ただ、かえって言われなき疑惑を国民から持たれないためにも、積極的に情報公開していくことが指針の趣旨だったはず。もちろん、業界団体が定めた指針で拘束力はないかもしれないが、世界的な情報公開の流れの中、当然の対応と言えた。
日本医学会も、利益相反委員会の活動で利益相反をめぐる情報開示に積極的な動きを見せてきただけに、大学関係者や製薬企業担当者からは「どうして医学会が」と当惑の声が上がっている。
2月には、日本循環器学会から疑義の指摘を受け、京都府立医科大学教授が責任者を務めた日本人対象の降圧剤「バルサルタン」の大規模臨床試験「Kyoto Heart Study」に関して、相次いで論文を撤回する事件が起こった。臨床試験の正当性に重大な疑義が指摘され、四つの論文で図表の二重使用があったこと等が認定された。最終的に、ねつ造はないと結論づけられたが、製造販売元の企業は資金提供を認め、教授は大学を退職する事態に発展するなど、利益相反への視線は一層厳しさを増すことになった。
こうした臨床試験に関する不正疑惑が発覚し、医師と製薬企業の不透明な関係が問われている中で、情報開示に後ろ向きな医療側の動きは社会から理解が得られないだろう。
そもそも、科学技術研究費が米国に比べて10分の1以下の日本で臨床研究を実施するためには、製薬企業からの資金提供は欠かせないと言われている。だからこそ、きちんと社会の目が届く中で、国民の医療に貢献する臨床研究を進めていかなければならないはずである。
今回、透明性指針に基づく全面公開は1年先送りになったが、個人名と金額等の公開範囲をめぐる議論に終始するのではなく、透明性指針の実施によって何を目指すのか。医療側と業界が共通認識を持ち、社会に訴えていくことしか信頼を勝ち取る道はない。