産婦人科医療の崩壊を防ぐためには、増加する医療事故民事訴訟への対応策が急務で、国による「産科領域に対する無過失補償制度」の導入と、保助看法の見直しが大きなポイントになる――先に京都市で開かれた第59回日本産科婦人科学会で指摘された。
木下勝之氏(日本医師会常任理事、日本産婦人科医会副会長)によると、日本産科婦人科学会の入会者は、新臨床研修医制度導入以前は400人であったが、06年の研修終了後は275人にまで減少し、その60%は女性医師であった。分娩を取り扱っていた病院数も、01年4月には1025あったが、03年7月には931まで減少、分娩を取りやめる病院が相次いでいるという。
また、わが国では分娩における診療所の役割が大きく、総分娩数約100万件のうち、47万件が診療所で扱われている。しかし、看護師の内診は違法とされているため、保助看法違反容疑で警察から捜査を受けるケースが後を絶たず、産科を離れる診療所が年々増加してきた。さらに医療事故への司法介入増加が、産婦人科医療の不安を煽っている。
研修医を対象に行った臨床研修終了後の意識調査では、研修医の80%が「産婦人科に興味を待った」としたが、そのうちの8割近くは「産婦人科を専攻したいと思わない」と回答したという。
病院から産婦人科医が去り、診療所が分娩をやめ、産婦人科を専攻する新人医師も減少している。このため必然的に産婦人科医が過重労働となり、それが分娩を担当する医師不足を助長するという悪循環が生まれている。
そうした状況に対して木下氏は、具体的改善案として、[1]民事訴訟増加への対応[2]保助看法に関する看護課長通知を見直すため、政治家を介した緊急改善要望[3]勤務環境の改善と女性医対応[4]新制度創設による産科医の養成と確保[5]入学時の地域別産婦人科定員枠の設置[6]研修後の各診療科の定員制による均等配置の創設[7]産婦人科選択研修医への優待制度[8]医療安全のための周産期ネットワークの構築――などを挙げた。
周産期医療を担当する医師の過酷な状況を踏まえ、木下氏は▽病院の産婦人科部長や大学教授には、リーダーとしての資質と魅力▽医局員は産科学と周産期医療の魅力と重要さを研修医に伝え、互いに切磋琢磨すること――が不可欠だと訴えた。