新たな感染症の脅威が迫ってきた。
厚生労働省は、2009年ごろから中国で報告されていた疾患について、11年に原因ウイルスが特定されたダニ媒介性疾患「重症熱性血小板減少症候群」(SFTS)の国内患者が初めて確認されたと今年1月30日に発表した。
同日付で発出された都道府県・保健所設置市・特別区衛生主管部局宛の結核感染症課長通知では、医療機関に対して情報提供協力を依頼した。患者情報を求める患者の要件としては、「38℃以上の発熱と消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血のいずれか)を呈し、血液検査所見で血小板減少(10万/mm3未満)、白血球減少(4000/mm3未満)および血清酵素(AST、ALT、LDHのいずれも)の上昇が見られ、集中治療を要するか要した、または死亡した者で、他の感染症、他の原因が明らかでない場合」とされている。
以降、情報提供の結果、2月13、19、26日と相次いで患者確認を報告し、これまでに計5人となっている。いずれも国内での感染が疑われている点が気がかりである。
この感染症の病原体は、ブニヤウイルス科フレボウイルス属のSFTSウイルスで、フタトゲチマダニなどのマダニによる咬傷が感染経路である。症状は発熱、倦怠感、食欲低下、消化器症状、リンパ節腫脹、出血症状で、潜伏期間は6日~2週間、致死率は約10~30%とされている。
病原診断するためには、血液などのサンプルからのウイルス分離・同定、RT‐PCRによるウイルス遺伝子検出、急性期・回復期でのウイルスに対する血清中IgG抗体価、中和抗体価の有意な上昇確認かIgM抗体の検出が必要であり、今は国立感染症研究所ウイルス第1部で実施できる。
新たな疾病における一番の問題は、治療法や予防法の確立であるが、特異的な治療法はなく、対症療法が主体で、有効な抗ウイルス薬もない。中国ではリバビリン(日本ではC型肝炎にも使用される抗ウイルス薬)が使われているが、効果は確認されていないという。
また、予防法においても、当然なことだがワクチンはなく、「野外でダニに咬まれないようにする」「感染者の血液、体液、排泄物との直接接触を避ける」しか手はないようだ。
厚労省は、患者発生報告した当日、一般向けと医療従事者向けのSFTSに関するQ&Aも公表している。まずはパニックを起こさないことが肝要だ。
20世紀の後天性免疫不全症候群で終わりかと思ったが、21世紀になってから新たな感染症がまだ出現している事態に、驚きと恐怖感を禁じ得ない。
これまで多くの疾患を克服してきた人類の叡智に期待し、早期の治療薬やワクチン開発に向けた新たな挑戦が結実することを願う。