月100時間以上の時間外労働による睡眠不足が、過労死や過労自殺と関連することが、産業衛生学会などの調査で明らかになった。
産業衛生学会の産業保健活動に携わる杉本寛治氏(滋賀産業保健推進センター所長)によると、現在、わが国の自殺者は年間3万人を超え、労働者の自殺者は700008000人に上るという。過重労働は、高血圧や糖尿病、高脂血症などの基礎疾患の悪化やうつ病を引き起こし、過労死や過労自殺につながっている。
残業時間が月80時間を越えると、会社がメンタル指導を行う仕組みになっているが、メンタルヘルスは官民・業種・職種を問わず悪化しているのが現状だ。05年度の脳・心臓疾患(過労死)の労災補償状況は、請求件数が869件で前年度に比べて53件増加している。同じく精神障害などの労災補償は、請求件数656件で対前年比132件の増加がみられている。
同学会が、仕事が原因の精神障害で自殺した1999001年度までの労災認定者51人を対象に残業時間などを調べた結果、自殺した前の月の残業が100時間以上だったケースが27人で、全体の53%を占めた。労災申請資料では、92%で自殺前にうつ状態を示していたが、約7割が精神科の治療を受けておらず、うつ病の診断はついていなかった。
さらに、うつ病が発症した時期を調べると、100時間以上の残業をしていたケースでは、仕事上のミスやノルマ未達成、顧客とのトラブルなどの問題が起きてから6カ月以内に96%が発病していた。これらの結果を総合すると、月100時間以上残業が睡眠不足の原因となって健康障害を引き起こし、過労死や過労自殺と因果関係があることが浮き上がってきた。
また、長時間労働だけでなく、職場のメンタルヘルスではうつ病が最重要課題になっている。日本人が死ぬまで働き続ける理由としては、[1]仕事が終わっているのに帰れない雰囲気[2]やれる人のところに仕事が偏るシステム[3]頼まれると断れない[4]困難な仕事をやり遂げることによって周囲からの信頼を得る‐‐など、わが国特有の職場環境が挙げられている。
杉本氏は、チームワーク精神そのものが、過労死や過労自殺を生み出すのではなく、「他人の痛みを自己の痛みとして感じる感覚の喪失が大きな要因となっている」とし、職場のメンタルヘルスを改めて認識する必要があるとした。