市町村長や市町村議会議員を中心とする統一地方選挙の後半戦、福島・沖縄両県の参議院議員補欠選挙も終わり、政局は7月に予定される参議院選挙が焦点となり、まだまだ社会全体に慌ただしさが残っている。
今回の選挙で考えさせられたのは、国民の安全と安心をいかに守り、保障していくかということだ。長崎では伊藤一長市長が市長選の遊説中に銃弾に倒れた。東京の町田市では、暴力団組員同士の内輪もめか、一人が銃殺され、その犯人が都営住宅に立てこもり、最後には拳銃で自殺する事件が起こった。こうした出来事は、直接的に「安心・安全」を脅かす。このほかにも、介護保険制度ができたにもかかわらず、老老介護の疲れから、介護者を殺害してしまう事件が後を絶たない。隣近所の付き合いも希薄になり、地域の助け合いがうまくいかない。さらに、地域を見渡せば、都市部といえども、核家族化の影響で、老人だけの世帯が増加しているなど、今後が危惧される状況が現存している。
こうした地域住民の、潜在的危機感にどう対応していくのか。候補者の主張を聞くと、▽中学生までの医療費の無料化▽高齢者の医療費の無料化――といったことから、▽明るい社会の実現▽住民が安心して暮らせる社会づくり――など、抽象的なものが多く、こうした潜在的危機感に応えるものが少なく思えて仕方ない。
ところで、「国民の安心と安全」ということでは、医療は大きな柱となっている。4月から改正医療法等に基づく医療制度改革の具体策が実施されているが、今年度は新医療計画や医療費適正化計画、地域ケア整備構想など、来年度から予定される改革の本質というべき各種施策実施前の、助走期間と位置づけられる。
今回の医療制度改革の柱には、▽医療機関の機能情報等を公開し、患者の選択肢を拡大する▽医療機関の分化・連携の推進による切れ目ない医療提供を目的とした医療計画の見直しを行う▽生活習慣病対策を推進するため、保険者に健診・保健指導を義務づけるなど予防面の重視▽中長期対策としての医療費適正化計画の策定▽75歳以上の後期高齢者医療制度創設――などが挙げられているほか、在宅医療の充実や医師偏在・不足への対応、保険者の再編・統合なども重要だ。また、都道府県は、こうした施策の中心的役割を担うことが明記されている。
厚労相を本部長とする医療構造改革推進本部の総合企画調整部会は、先の都道府県担当者を集めた会議で、各都道府県が医療計画を作成するに当たって参考となるよう、「医療政策の経緯、現状及び今後の課題について」という小冊子を示した。
この中で、医療連携体制構築を中心とした新医療計画については、都道府県に対し、地域の実情に応じた医療機関の機能分担・連係を基本に、主要な4疾病・5事業に関し、発症から入院、在宅療養までの医療の流れや、具体的な医療機関、医療圏域の明示を求めている。
また、診療所間の相互連携を図り、一次医療の窓口とし、病院は原則として入院医療と専門的外来のみを担当するとの考え方も示している。さらに、在宅医療の中では、開業医のチーム化や、重複投与等を防いだりする高齢者医療の標準化の必要性を説いている。
日本は現在、地域分権を目指した方向で、各種の検討が行われている。医療制度もこの流れの中にある。これからの医療は、介護サービスや福祉サービスとも連携を深めていかなければならない。21世紀を迎えた日本が、どのように新たな医療制度を築いていくのか、医療の潜在的危機感に国民全員が、どのように対応していくのか問われている。この一年間は、その答えを探し出す時間かもしれない。