ヒューマンサイエンス振興財団(HS財団)は、2006年度の国内基盤技術調査報告書「2015年の医療ニーズの展望II(分析編)」をまとめた。過去3回実施した約60疾患のアンケートを分析した結果、この10年間で治療満足度・薬剤貢献度は全般的に向上していることが分かった。また、糖尿病や認知症など重要5疾患の専門家へのヒアリング調査では、将来、ほとんどの疾患が増加すると予測され、早期発見・早期治療の重要性が強調される結果となった。
約60疾患ごとの医療ニーズに関するアンケートは、94年度、00年度、05年度の3回実施されてきた。報告書では、過去3回の結果をもとに、およそ10年間の時系列変化、企業と医療現場の考え方や意見の隔たり、背景となる行政や社会の動向などを含め、詳細な分析を行った。
分析対象は、全国の医療機関の医師787人と、HS財団賛助会員の医療関連企業98社。時系列比較では、05年度に調査した60疾患について、▽治療満足度▽薬剤貢献度▽患者数増減予測””などが比較された。
医師を対象とした疾患領域別の結果では、94年度の治療満足度・薬剤貢献度は平均20%台だったのに対し、00年度、05年度にはいずれも約40%と大きく向上していた。しかし、企業の05年度の治療満足度は約25%にとどまっていた。
報告書ではこの原因について、現段階では明確にできないとした上で、▽企業は主に薬剤による治療を考えているのに対し、医師は薬剤以外の治療法も含めて考えている▽患者への関与の違いからくる薬剤による治療効果への期待度の相違▽医師が国内にのみを意識して回答したのに対し、企業は欧米も視野に入れて回答したため””などを指摘。今後は、企業の認識が医師に近づき、さらに有用性の高い新薬を開発し、満足度・貢献度が向上することが望まれるとまとめている。
個別疾患の分析では、多くの疾患で評価が向上したが、悪性新生物については治療満足度が向上した一方、薬剤貢献度の評価はそれほど伸びていない。代謝性疾患の糖尿病と高脂血症は、治療満足度・薬剤貢献度とも高い評価となったが、糖尿病合併症については依然として低レベルだった。また、精神神経疾患では、認知症や血管性痴呆は、治療満足度・薬剤貢献度共に満足できない状態が続いているのに対し、統合失調症、うつ病、不安神経症では00年度にかけて評価が高くなっている。循環器疾患では、高血圧、狭心症、心筋梗塞などは満足度・貢献度共に向上している一方、脳血管系疾患では両者とも低い傾向が見られた。
また05年度の調査で、医師・企業が共に「重要となる」「患者数が増加すると考えられる」とした糖尿病、認知症、肺癌、うつ病、COPDの5疾患について、専門家3人を対象に問題点や15年の予測、医療ニーズなどに関しヒアリングも実施された。その分析では、人口の高齢化に伴いいずれも患者が増加すると予測され、早期発見・治療のための啓発活動や早期診断法の導入が必要とされた。