神戸市の理化学研究所に設置されたスーパーコンピュータ「京」が今年6月に完成し、9月末ごろから本格稼働する。幅広い分野での活用が構想されており、柱の一つは創薬だ。
現在、「京」を中核に国内の主要スパコンをネットワークで結んだ、革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築が進んでいる。並行して文部科学省は、HPCIを五つの戦略分野で幅広く活用するプロジェクトを開始している。
その一つの分野が「予測する生命科学・医療及び創薬基盤」。1秒間に1京回の計算が行える「京」の計算能力を活かし、主に全身から分子レベルまで生体内の様々なシミュレーションを行うものだ。
この分野の4課題のうち「創薬応用シミュレーション」では、標的分子に候補化合物が結合するかどうかをシミュレーションし、候補化合物の探索や設計に役立てる。
製薬会社は以前からインシリコ創薬と称し、コンピュータを活用してきた。ただ、分子間結合のシミュレーション精度は高くはなかった。「京」によってその精度向上が見込まれる。また、一瞬の静的な結合だけでなく、動的な結合挙動まで把握できると期待されている。
このほか創薬については、▽心臓をコンピュータで再現し、副作用の発現をシミュレーションする▽大規模生命データを解析し疾患原因遺伝子を同定する――などの活用が構想されている。
スパコンを上手く使えば、創薬シーズの創出、研究開発期間やコストの縮小、創薬の成功確率向上に役立つとの期待は強い。理研などの研究グループは現在、戦略分野「予測する生命科学・医療及び創薬基盤」に共同研究として製薬会社に加わってもらうべく計画を立案中。これが承認されると、具体的な研究が始まる見通しだ。
一般の研究者や企業が「京」を利用できる仕組みも設けられている。「京」の能力の50%は五つの戦略分野に振り向けられるが、30%は一般利用枠として開放される。公募の説明会が4月27日から複数回開かれた。この枠での製薬会社の利用も見込まれる。
今後、製薬会社が「京」を利用する上で、▽製薬会社が使うアプリケーションを「京」で使えるようにする▽費用負担や収益分配のルールを作る▽データのセキュリティを確立する――などの課題がある。製薬会社が使いやすい環境の整備を求めたい。
自動車の設計などでは広く活用されるスパコンだが、複雑な生命科学領域では十分に活用できるだけの性能にようやく届きつつある段階だ。とはいえ、性能は今後さらに向上すると見られ、現段階からその活用方法を構築しておくことには大きな意義がある。国内製薬産業の競争力を高めるためにも、長期的な視野でスパコンの積極的な活用を図っていくべきだろう。