今年は何と言っても、3月の東日本大震災発生につきる。医療関係者は一丸となって被災地の支援に全力を挙げた。ただ、経済は一向に好転の兆しを見せず、政治も菅首相が退陣し9月に野田新政権が発足するなど、大震災被災地の復興がままならない中で混迷を深め、年末にまでなだれ込んだ感がある。医薬業界もこうした混迷を受けているが、次なるステージへの飛躍に向けた取り組みが求められている。そこで、恒例の薬業界10大ニュースを選んでみた。
未曾有の東日本大震災‐薬業界全体で支援活動
今年3月11日に発生した東日本大震災は、マグニチュード9というまさに未曾有の自然災害だった。地震に伴う大津波が、沿岸一体を押し流し、より大きな被害につながった。災害医療現場は、家屋倒壊等による外科系疾患が主体であった「神戸」「新潟沖」とは一変。津波から逃れた慢性疾患系の患者、あるいは健常人の健康維持が焦点となった。
当初は通信がほぼ途絶した状態が続いたこともあり、そのような現場の医薬品ニーズが確認できず、供給品目とのズレがあったようだ。また、せっかく用意された医薬品も、高速道路の規制、ガソリン不足が追い打ちをかけ、さらに沿岸部の主要道路が壊滅的状態になり、点在する避難所等へと運ぶ「ルート」も寸断、場所によっては医薬品不足が指摘された。
また、自らの工場が損傷、一部製品が製造できないなどといった事態に陥りながらも製薬各社は大量の医薬品を提供。支店の倒壊等、自らも被災者となった医薬品卸だが、どんな事態にあっても安定供給するという覚悟のもと、災害拠点病院や薬局などへと医薬品を供給し続けた。また、多くのOTC薬がドラッグストアなどの支援のもと、現地へと届けられた。まさに薬業界全体が支援活動に取り組んだ。
また、延べ8000人を優に超えるボランティア薬剤師は薬局や病院薬剤部をはじめ、製薬企業等や大学など幅広い職域から駆けつけた。各避難所や災害拠点病院等で、調剤やOTC薬等を適正供給、さらに避難所や避難者の衛生管理に至るまで、まさに薬剤師法に示された職能が発揮され、長く続く避難生活を下支えした。
今回、津波で患者情報が失われ、現場でお薬手帳が見直された。患者は「常用薬」が分からず、担当医師も入れ替わる中、薬剤師は限られた「ストック」の中から適剤を選定、処方支援した。医療チームの一員として高い評価を得たのは記憶に新しい。
さて「今年の漢字」に「絆」が選ばれた。未曾有の大災害から立ち直るために見出したキーワード。薬剤師にとっては患者や医療スタッフとの間に結ばれた「信頼感」ともいえよう。
診療報酬改定率決まる‐年明けから点数設定へ
2012年度診療報酬改定の枠組みが、年末の予算編成過程で、薬価・材料価格と技術料本体を合わせた全体で0・004%の引き上げに決まった。民主党政権になって2回連続のネットプラスだが、ついに改定率は小数点以下三桁の世界に入った。本体は1・379%のプラスで、医療費にすると5500億円程度の底上げ財源を確保したことになる。
これを踏まえて中央社会保険医療協議会は年明けから具体的な点数設定を進めるが、既に方向性は固まっている。
後発品の使用促進については、薬局向け対応として、「後発医薬品調剤体制加算」の中高レベル帯の基準を引き上げるほか、薬剤情報提供文書を活用して薬局が患者へ後発品の価格などを説明した場合の評価を新設する。
医療機関向けでは、「後発医薬品使用体制加算」を2段階の加算に見直すと共に、一般名処方の推進や処方箋様式の変更によって、医師にテコ入れする。
また、調剤報酬改定では、在宅業務を推進するために施設基準を伴う新たな評価を導入したり、「薬剤服用歴管理指導料」と「薬剤情報提供料」を統合する方針を確認している。
製薬協が透明性指針‐支払い金銭情報公開へ
日本製薬工業協会は3月、医療機関や医師等に支払った金銭の情報を開示する「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」を公表した。研究費、臨床試験費や寄付金、講師への謝礼、講演会費用などが対象。2012年度分の支払いを13年度から公表することになった。
今回の指針は、記載が望ましい公開対象に研究開発費等、学術研究助成費、原稿執筆料等、情報提供関連費などを挙げた。奨学寄付金や財団等への一般寄付金、学会寄付金・共催費について、大学や教室名、学会名と金額を公表するほか、原稿執筆料等は支払った講師謝礼や監修料などについて、個人名まで開示する。接待費等も年間総額を公開することを求めた。
透明性指針は、世界的な情報開示の流れに沿ったもので、企業活動を大きく変えるインパクトを持つ。医師・研究者側も歩調を合わせ、日本医学会は利益相反指針で研究者に金銭受け取り情報の開示を求めている。
今後、企業活動には、社会からの理解も求められる。情報開示だけにとどまらず、企業として透明性を高める行動が問われることになる。
薬価制度改革:新薬創出等加算は試行‐長期収載品追加引き下げ
中央社会保険医療協議会が12月21日に、2012年度薬価制度改革の骨子を了承した。薬業界が要望した2大テーマのうち、前回導入した新薬創出・適応外薬解消等促進加算の恒久化は、試行を続けて14年度に検証することで決着。基礎的輸液など必須薬の採算割れを未然に防ぐために薬価を維持する仕組みの導入は、中医協委員が慎重姿勢を崩さず、見送ることになった。
このほか骨子には▽市場拡大再算定の強化▽大型先発市場への後発品の参入集中や価格のバラつきの是正▽光学分割薬の薬価を既収載のラセミ体医薬品の8割に設定する新ルールの導入▽配合剤薬価を単品合計薬価の8割とする特例を、内用薬だけでなく注射薬や外用薬へも拡大――などを盛り込んだ。
また、長期収載品の追加引き下げも明記した。ただ、財務省が当初提示した10%の引き下げは、中医協委員も「過大」と指摘。最終的に政府が決定した下げ幅は0・9%になった。通常の薬価引き下げ6・00%(薬価ベース)とは別枠で対応する。
さらに、今後の課題として、新薬の算定に費用対効果の観点を導入する検討を進める方針も示した。
イノベーションの推進‐「停滞許されない」政策
政府は1月7日、新成長戦略に基づいて産学官のオールジャパンで日本発の医薬品、医療機器、再生医療を生み出すため、内閣官房に「医療イノベーション推進室」を設置した。基礎から実用化まで、切れ目のない研究開発費の投入や基盤整備に取り組むほか、障害となる規制・制度の課題も洗い出す。
室長には、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長の中村祐輔教授が就任し、研究開発を省庁横断的にバックアップする体制が整った。
推進室では、創薬スクリーニング、創薬化学、薬剤開発を推進する機能を持った「創薬支援機構」構想や、癌ワクチン、核酸医薬品、再生医療製品などの評価方法の標準化を行う「先端的医薬品医療機器評価技術開発センター」を創設する方針を打ち出し、予算要求への関与にも意欲を示していたが、1年足らずで中村室長が辞任する事態となっており、実現の可能性は不透明な状況。
しかし、今月14日の「医薬品・医療機器産業発展のための政策対話」では、医療イノベーション室を活用し、今年度末で目標期間を終える「革新的医薬品・医療機器創出のための5カ年戦略」に続く新たな政策パッケージを策定する方針も確認しているだけに、停滞は許されない。
薬事法改正議論始まる‐第三者組織の結論は得ず
薬害肝炎検証・検討委員会の最終提言を受け、薬事法改正に向けた議論を行う厚生科学審議会「医薬品等制度改正検討部会」が3月22日にスタートした。
2012年の通常国会への薬事法改正案提出に向け、医薬品行政を監視・評価する第三者組織の設置をはじめ、添付文書の法的位置づけの明確化や、治験に参加できない患者が未承認薬にアクセスする新たな仕組みの創設などについて議論したが、制度改正部会では、第三者組織の設置と添付文書を承認の対象とするかどうかが主な焦点となった。
添付文書については、承認制度の対象にするとリスクに臨機応変に対応できない恐れがあることから、厚生労働省は引き続き承認対象にはしないとの方向になったが、承認申請時の添付文書案や関連資料の提出と、製造販売前や改訂時に、厚労大臣へあらかじめ案を届け出る義務を企業に課す規定を新設する方針を示している。
ただ、第三者組織については、厚生科学審議会に部会を新設する選択肢を厚労省が提案しているが、既存の審議会等とは異なる組織の設置を求める薬害被害者らが反発しており、結論が出ていない。
ネット販売めぐり攻防‐不断の見直しの方向性
一般用医薬品のインターネット販売を第3類薬以外に拡大するよう迫る内閣府と、対面販売原則の堅持を主張する厚生労働省の綱引きが今年の前半の大きな話題だった。7月に「規制・制度改革に係る追加方針」が閣議決定され、合理的な規制の検討を今年度開始し、可能な限り早期に結論を得ることで、一応の決着を見た。
内閣府との折衝は、行政刷新会議の分科会が昨年春に持ちかけてから落ち着くまで1年近くかかった。
今年に入ってからは、政府のIT戦略本部も規制見直しを提言。3月の規制仕分けでも大きなテーマとして取り上げられ、東日本大震災の影響で一時中断した内閣府と厚労省の折衝も6月には再開した。与党では民主党のプロジェクトチームが慎重な検討を求める意見書をまとめて、厚労省を支持した。
最終的に、当面は現行の枠組みを維持し、[1]合理的な規制のあり方を検討する[2]販売・流通規制を断続的に見直す[3]リスク区分を不断に見直す[4]対面販売の実施状況、円滑供給への寄与度等を検証する[5]経過措置期間中の副作用発生状況等を検証する――方向性に落ち着いた。
GE薬企業の再編活発化‐テバが国内トップに
新規参入が相次ぎ活発化する国内ジェネリック医薬品(GE薬)企業の再編劇は、今年も大きな展開を見せた。
世界最大手のテバは、国内3位の大洋薬品の買収に続き、興和との合弁事業を解消。興和テバを完全子会社化した上で、両社を統合し、2012年半ばに「テバ製薬」を発足させると発表した。一気に国内GE薬企業トップに躍り出た。
世界2位のサンドは、ニプロと戦略的提携契約を結んだ。両社は開発品や販売中のGE薬について共同開発、共同販売、導出入等を行う。07年からの協力関係をもとに包括提携に踏み切った。
新規参入組の富士フイルムは、インド大手のドクターレディーズラボラトリーズ(DRL)と提携し、日本で合弁会社を設立すると発表した。印DRLは富士フイルムと手を組み、日本市場に本格参入する。さらに印ルピンは、子会社の共和薬品工業を通じてアイロム製薬を買収。インド勢の攻勢も強まっている。
一方、バイオ後続品をめぐり、Meiji Seikaファルマと韓国の東亞製薬、富士フイルムと協和発酵キリンが合弁設立を発表するなど、バイオ後続品の獲得競争も激しさを増している。
調剤過誤で書類送検‐元埼玉県薬剤師会会長ら
2011年には調剤過誤による死亡事故で、埼玉県警は小嶋富雄元埼玉県薬剤師会会長と女性管理薬剤師1人を、さいたま地裁に書類送検した。県薬会長という要職にある人物が起こした死亡事故で、薬局現場には大きな衝撃が走り、改めて医療安全体制の見直しが求められた。
県警によると10年3月、女性患者(当時75歳)に対し、小嶋元会長が胃酸中和剤を調剤すべきところをコリンエステラーゼ阻害薬を調剤し、監査をせずに交付した。管理薬剤師はミスに気づいた部下から報告を受けたものの、薬剤の回収などをせずに放置し、結果として女性を死亡させた。小島元会長は事件後も日本薬剤師会理事と県薬会長を務めていたが、日薬理事は11年初めに、県薬会長は書類送検された8月19日に辞任した。
事態を受けて日薬では、「国民・患者からの医薬分業や薬剤師に対する信頼を大きく損なう行為であり重大に受けて止めている」とコメントを発表。医療安全に係るマニュアル等の充実や「ヒヤリ・ハット」報告の推進で、医療安全を高めていきたい考えを示した。
関口新体制がスタート‐さらなる飛躍期すJACDS
日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)は7月の通常総会で、新会長に関口信行氏を選出した。関口氏は就任後、今後の活動方針としてセルフメディケーションの推進、面分業の推進と共に、「ドラッグストアが地域医療に積極的に参画していく必要性」を挙げ、JACDS3代目会長としての新体制がスタートした。
協会の歴史の中でも、今年は特に印象的な一年となった。今回の東日本大震災は、まさに最重要事業の一つであるJAPANドラッグストアショー初日の出来事で、以後の開催中止を余儀なくされた。
一方、行政からの要請を受け、被災地に向けてOTC薬・衛生用品等の救援物資を製配販各団体、薬剤師会と連携して緊急搬送を行うなど、官民一体・業界挙げての迅速な対応は、社会からも高い評価を得た。
改正薬事法の趣旨徹底など業界適正化への取り組みや、有識者会議による中立・公正な立場で医薬品の安全・円滑な提供方法の議論も進めるなど、関口体制となっても業界内外に向けた基本活動の方針は微塵も揺るがない。
協会が掲げる『2015年10兆円マーケット』の実現は、ドラッグストアが地域生活者にとって身近な“街の健康ステーション”として活用されることなくしては、あり得ず、さらなる来年の活動を期待したい。