理化学研究所ゲノム科学総合研究センター遺伝子構造・機能研究グループと理研ベンチャーのダナフォームを中心とする共同研究グループは、SNP(一塩基多型)を血液一滴から30分以内に診断する「SMAP法」を開発した。薬物代謝酵素などには多くの遺伝子多型が知られ、薬効や副作用出現の個人差となって現れるだけに、実用化が進めばオーダーメイド医療に革命をもたらすものとして期待される。研究成果は、米国科学雑誌「Nature Methods」オンライン版に掲載された。
これまで、SNPを調べるには血液からDNAを精製して増幅し、増幅したDNAを様々な方法で解析することが必要だった。そのために作業が煩雑で、それぞれの試薬や特別に設計した高価で特殊な装置が必要となり、診断結果を出すまでに1時間半から数日程度かかっていた。
研究グループでは、術中診断、外来初診診断を可能とする診断時間の短縮(検体採取後30分以内)、操作の簡便化、個人別地域医療の実現を視野に入れた携帯電話接続可能マイクロカードを目指して、新規遺伝子診断システムの開発に取り組んできた。その結果、血液一滴以下(数μL程度)を前処理試薬と混合し加熱処理後、そのまま増幅試薬に添加し、60℃で反応させることで、簡便・迅速にSNPを診断する新規技術「SMAP法」の開発に成功した。特許も取得している。
独自開発されたSMAP法は、[1]DNA増幅そのものがSNPのシグナルであるというSNP特異的DNA増幅反応が等温(60℃)で進行[2]独自開発した極めて合成能力の高い酵素により増幅反応が30分以内に終了[3]DNAの抽出・精製工程が不要で操作が簡単[4]高感度定量的で、癌細胞と正常細胞の比を手術中に診断可能‐‐といった特徴を持つ。特に、SNP特異的DNA増幅法の致命的な欠点だったバックグラウンド増幅を完全に抑制したことによって、血液からDNA抽出・精製をする必要がなく、採血後30分以内に診断結果が得られるメリットは大きく、世界最速の診断法となっている。
診断時間が短いため、今後、癌手術中における転移の有無や抗癌剤の感受性などの診断、外来患者に対する薬の効き目や副作用の可能性の迅速判定など、幅広い利用が期待される。