厚生労働省の「抗がん剤等による健康被害の救済に関する検討会」は6日、癌薬物療法の現状などについて意見交換した。医療関係者の委員からは、患者による抗癌剤の効果にバラツキが大きいことや、毒性を認識して使用せざるを得ない側面があるとの指摘が相次いだ。抗癌剤を被害救済の対象とした場合、標準治療が確立されていない再発癌などでは、適正使用かどうかの判断が難しく、萎縮医療を招く懸念があるとの意見も出た。
癌に対する薬物療法は、治癒するケースはごく一部に限られ、得られる効果は癌の種類、進行ステージ、患者の状態によって多様で不確実性が高い。
長谷川好規委員(名古屋大学大学院医学研究科)は、腫瘍縮小効果の得られる患者割合が、遺伝子変異の有無で使い分けできるイレッサやタルセバだと7割程度になるものの、一般的には3~4割にとどまるとし、「ある確率の下に治療するもの」と説明。「毒性を認識して量が決まっていることも理解してほしい」とも述べた。
中村祐輔委員(東京大学医科学研究所)も、「生存期間が伸びるのも、あくまで確率の問題。一人ひとりの患者にとっては、やってみなけければ分からない。副作用にも個人差がある」と強調。また、進行癌で他に選択肢のない場合と、術前・術後の補助療法では、リスク・ベネフィットの考え方が異なるとして、今後の議論では両者を分けて検討するよう求めた。
檀和夫委員(日本医科大学病院病態制御腫瘍内科学)は、「最も重要なことは、救済制度で医療関係者の萎縮を招かないかということ」と述べた。再発癌で標準治療がない場合に、条件の似た患者の事例を世界中から探し、インフォームドコンセントをとって使用しているのが実態で、適正使用かどうか判断が難しいという。そのため、「(救済条件として)適正使用の条項を持ち込まないようにしないと悪影響がある」と指摘した。
遠藤一司委員(明治薬科大学医薬品安全管理学)は、「癌治療を上手くやっていくことを考えないと、制度を作れば良いというのとも違う」と述べた。
また、斎藤誠委員(一橋大学大学院経済学研究科)は、抗癌剤を救済制度の対象とすることに慎重な立場を表明した。理由として、▽リスクを認識して抗癌剤を受け入れた患者が、副作用でどのような利益が失われたのかの、客観的判断が難しい▽給付要件の範囲内で処方されることが予想され、医療現場の柔軟な対応を妨げる▽進行に応じた正確な患者数や抗癌剤処方の実態など、制度設計に必要な情報基盤が欠如している――を挙げた。