福島第一原発事故で東京電力は、安定的な「冷温停止状態」にするまで、6~9カ月程度かかる見通しを示した。その工程表に対して、作業の遅れを心配する専門家の声も聞かれるが、一日も早い収束を願うのは万人の思いだ。
原発事故での放射性物質の拡散による人体への影響が懸念されるが、巷ではベクレルやシーベルトの単位が氾濫しており、この単位を聞いただけで、不安を抱く人も少なくないだろう。「基準上は線量オーバーしているが、直ちに健康に影響を及ぼす数値ではない」との関係者の曖昧な表現が、市民の不安を一層駆り立てる。
ベクレルは1秒間に放射性物質が出す放射線量の単位で、シーベルトは放射線が人体に及ぼす影響の数値だ。人間が1年間浴びても大丈夫とされる基準値は1ミリ・シーベルトで、100ミリ・シーベルト未満では人体への影響はないとされている。
500ミリ・シーベルトでは、リンパ球減少の急性症状が表れる。1000ミリ・シーベルトで1割が吐き気やだるさを訴え、4000ミリ・シーベルトで半数が30日以内で死亡する。
100ミリ・シーベルトから500ミリ・シーベルトの間はグレーゾーンで、明確な人体への影響は明らかにされていない。
今回の原発事故では、3号機付近で最高400ミリ・シーベルトの放射線量
が計測された。また、3号機で復旧作業をしていた作業員3人が173~180ミリ・シーベルト被曝した。
厚生労働省は、原発で緊急作業に当たる人員の被曝量上限を年間100ミリ・シーベルトから、今回に限り250ミリ・シーベルトに引き上げたが、有事での混乱を防止するには、今後、グレーゾーンの人体への影響を明らかにしていく必要があるだろう。
一方、放射性物質の農作物や乳製品への影響では、セシウムとヨウ素に暫定規制値が設けられている。飲料水と乳製品はセシウム200ベクレル、ヨウ素300ベクレル、野菜・穀類・肉類・卵などではセシウム500ベクレル、ヨウ素2000ベクレルとなっている。
日本の暫定規制値は、国際原子力機関の値の10分の1とかなり厳しい。放射線物質の規制値をより低く設定し、高い安全性を確保しておきたいことは理解できる。だが、平常時に設定された厳格な規制値と、有事での測定値を比較すれば、規制値を何倍も上回る数字が飛び交っても何ら不思議はない。
国が、農産物や水道水に含まれる放射性物質をきちんと測定し、消費者の安全を担保することは不可欠だ。だが、有事での放射線量と人体への影響、放射性物質の暫定規制値については、もう一度見直しを行い、「要監視」「要注意」「絶対に危険」などの段階をきめ細かく設定し、混乱を招くことなく、国民に正確に伝える必要があるだろう。