C型肝炎ウイルス(HCV)感染を原因とする肝癌の全ゲノムを、国立がん研究センターと東京大学先端科学技術研究センターのグループが、世界で初めて解読した。HCV肝癌の全ゲノム解析から、癌抑制遺伝子の変異など、多数の遺伝子異常が起きていることが分かったことで、今後、新たな診断・治療につながることが期待される。研究は、癌の遺伝子異常についてのカタログ作りに取り組んでいる「国際がんゲノムコンソーシアム」の一環として行われたもので、英国の乳癌解析に次ぐ2番目の報告になる。
今回、詳細な解析ができたのは、70代男性患者1人。解析では、63個のアミノ酸置換を引き起こす遺伝子変異と、4個の融合遺伝子を含めた、肝臓癌で起こっているゲノム異常の全体像を明らかになっている。また、HCV肝癌で特徴的な遺伝子変異パターンのほか、ごく一部の癌細胞でだけ癌抑制遺伝子の変異が見られるなど、肝癌の複雑さも明らかになっている。
C型肝炎から肝癌発生に至るまでには20~30年の経過があり、いつ、どこで、どのように癌のゲノム変異が起きているか、また各種のゲノム変異に共通パターンがあるかどうかなどが分かれば、新たな診断・治療法の開発につながる。国立がん研究センターの嘉山孝正理事長は、HCV肝癌のゲノム全体像が解読されたことで、「ゲノム解析情報に基づく癌個別化医療の実現へ大きく近づいた」としている。
ただ、これまでもHCV肝癌については、いろいろなタイプが混在していることが想定されており、今回の1患者だけの解析では、HCV肝癌のゲノム変異全体像を映し出しているとはいえないため、研究グループでは今後、さらに症例を増やして、解析を進めることにしている。