国際科学技術財団の2011年(第27回)日本国際賞の受賞者が25日に決まった。今回、選考対象となった「生命科学・医学」分野からは、岸本忠三(大阪大学名誉教授・元同大学総長、71歳)と平野俊夫(大阪大学教授・医学部長、63歳)の両氏が選ばれた。インターロイキン(IL)-6の発見から、関節リウマチ治療薬の開発など、基礎研究成果の疾患治療への応用に、一貫して貢献したことが評価された。岸本氏は、平野氏をはじめとする多くの共同研究者に感謝すると共に、「IL-6の研究が、多くの人を病気の苦しみから救うことにつながり、嬉しく思っている」と、受賞の喜びを語った。
両氏は、長年の研究の結果、免疫に関わる細胞間情報伝達物質のIL-6を発見し、その多様な機能と、複雑な情報伝達経路を解明した。さらにIL-6と、炎症や様々な疾患との関連に着目し、IL-6が関節リウマチをはじめとする各種疾患の病態に重要な役割を果たしていることを突き止めた。
また岸本氏は、この研究成果をもとに、IL-6の働きを阻害することによって、自己免疫疾患である関節リウマチやキャスルマン病などを治療する、新薬「トシリズマブ」を製薬企業と共同開発した。トシリズマブは、関節リウマチ治療薬として08年に日本で承認されて以来、現在では世界70カ国以上で承認されている。
国際科学技術財団は、「基礎研究から治療法の開発までを、一貫して発展させた業績は、医学・生物学領域の歴史に残るもので、世界中で高く評価されている」ことを、両氏の受賞理由として挙げている。
受賞に当たって岸本氏は、「役に立つことを考えなくとも、神髄を突いた医学の研究は、必ず病気の診断・治療につながるというのが私の信念。10年後、20年後に抗体薬トシリズマブが、世界中で、誰でも知っている薬になっていてくれたらというのが現在の夢」と語った。
平野氏は、「基礎研究への取り組みが、関節リウマチ治療薬への道を切り拓いたことは、医学部を卒業した39年前には、想像すらしていなかった。医療を考えた場合、医師不足や医療崩壊など、当面の問題が注目されがちだが、現在の医療は、長年にわたる基礎科学研究の成果をもとに成り立っていることを強調したい」と、基礎科学を重視し、科学技術の発展を目指すことの重要性を強調した。
なお、「通信・情報」分野からは、現代のインターネット実現を大きく支えたオペレーティングシステム・UNIXを開発したデニス・リッチー(ベル研究所特別名誉技師、69歳)とケン・トンプソン(グーグル社特別技師、67歳)の両氏が選ばれた。各分野に対し賞金5000万円が贈呈される。授賞式は4月20日、東京千代田区の国立劇場で行われる。