若年者の重症睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者でメタボリックシンドローム合併率が高いことが、14日に東京平河町の日本都市センターで開かれた第41回日本成人病(生活習慣病)学会で、成井浩司氏(虎の門病院睡眠センター)から報告された。60歳未満のメタボリックシンドローム合併率は重症SAS患者で46%、中等症患者でも30%に及んでおり、最近の肥満増加傾向を考えると、もはやSASは中高年の疾患とは言えなくなってきている。それだけに、今後は肥満を持つ若年者への早期スクリーニング、早期介入が必要になるものと考えられている。
SASは、睡眠中に症状が見られるため、なかなか診断に至らないことが問題とされている。症状としては、いびきと無呼吸、呼吸再開時の覚醒、夜間頻尿などがあり、日中の眠気、突然の居眠り、記憶力・集中力の低下などに影響を及ぼしてくる。
実際にSASの診断は、無呼吸/低呼吸指数(AHI:睡眠1時間当たりの無呼吸と低呼吸の回数)で行われる。1時間に5回以上無呼吸がある場合をSASと診断し、5015回が軽度、15030回が中等度、30回以上が重度となっている。1時間に30回の無呼吸が起こるとなると、2分に1回呼吸が止まって覚醒していることになり、深い睡眠を得られないことが最大の問題となっている。
最近の報告では、日本の就業者人口のうち約5%がSASと考えられており、治療の必要性が指摘されている。
実際に現在、SASの診断を受け、治療を行っているのは10015万人程度とされ、潜在的に多くの患者が存在しているのが現状だ。また、SAS患者の多くは肥満を伴っており、様々な生活習慣病の合併率も高いといった特徴を持つ。鼻マスクを使ったCPAP治療で虎の門病院に通院している751例を調べたところ、平均BMIは27.7と高く、そのうち70%以上がBMI25以上の肥満者であることが分かった。
しかも、高血圧の合併頻度は63.8%、次いで脂質代謝異常51・1%、高尿酸血症24.6%、糖尿病17.7%と、生活習慣病の合併が顕著に見られた。既にSASの治療前に、冠動脈疾患、脳血管疾患を合併している割合もそれぞれ5.2%、4.5%との結果で、SASを治療しなければ、生活習慣病を中心とする様々な疾患を合併してくることが浮き彫りになった。そのため、いかに早く診断し、CPAP治療を行うかがカギになってくる。
最近報告されたスペインの成績によると、重症OSAS(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)患者を治療群、非治療群に分け、10年間の長期予後をフォローアップしたところ、非治療群では致死的心血管イベント、非致死的心血管イベントともに高い発現率を示すことが分かった。しかし、CPAP治療を行うと、非OSAS患者や軽症OSAS患者と同等にまで、イベント発生率を抑えるとの結果が得られている。この成績から、日常診療の中でSASの診断ができ、かつ1時間に30回以上の無呼吸がある重症患者には、積極的な治療介入をしていく必要があるのではないかと報告されている。
SASの診断には、パルスオキシメータ、簡易モニタ、終夜睡眠ポリグラフィを使った方法がある。中でも終夜睡眠ポリグラフィは、低酸素血症、気流状態、無呼吸のタイプ分けから、睡眠段階、覚醒反応まで調べることができるが、専門の睡眠施設に102泊入院する必要が出てくる。虎の門病院でも睡眠検査ベッドが7ベッド用意されており、年間約1600人が睡眠検査を受けている。最近は、精度の高い簡易検査が登場してきており、自宅で検査を行い、CPAP治療を導入することも可能になってきているようだ。
また、SASの治療は鼻マスクを付けるCPAP治療が行われる。実際SASをCPAPで治療すると、無呼吸、低呼吸、いびきが消失するばかりか、睡眠の質が改善されて日中の活動性が高まり、高血圧の改善や合併症の予防、改善にもつながる成績が得られている。その結果として、冠動脈疾患、脳血管疾患の発症も2次的に抑制できることが大きなメリットとなる。
SASには、様々な生活習慣病が絡んでくる危険があるが、最近話題のメタボリックシンドロームの合併が注目されるところだ。イギリスの報告では、コントロール群43人、SAS群61人について調べた結果、メタボリックシンドローム合併率はコントロール群の35%に対し、SAS群では84%と非常に高いことが示されている。
成井氏らも、虎の門病院でSASと診断された483例を対象に、メタボリックシンドロームの合併率を調べている。60歳以上群、60歳未満の若年者群に分け、SASの重症度別にメタボリックシンドロームの合併率をみると、若年者の重症患者では46.7%、中等症でも31.5%が合併していた。60歳以上群では、合併率が若干低かったことから、60歳未満の重症SAS患者では、メタボリックシンドロームの合併率が高いことが分かった。
これらのことから成井氏は、「SASとメタボリックシンドロームは、非常に関連が強いが、特に若年者に強い関連が出ている」と指摘し、「SASと診断される患者は中高年男性との認識もあるが、近年のわが国の肥満人口の若年化、増加傾向を考えると、肥満を持つ人に対しては若年者でも早期からのSASスクリーニング、治療介入が必要ではないか」と報告した。
- 【厚労省】40074歳男性の2人に1人がメタボリックシンドローム‐国民健康・栄養調査
2006年05月10日