厚生労働省の自殺・うつ病対策プロジェクトチーム(PT)は9日、医師の過量処方や患者の過量服薬の防止に向け、薬剤師による患者への声かけや、医師への疑義照会などを盛り込んだ対応策をまとめた。厚生労働科学研究班の実態調査や、PTが行ったヒアリングでは、抗うつ薬や睡眠薬などの向精神薬の過量服用と、自殺の関連性が指摘されており、処方薬を渡す際に、患者と接する薬剤師を、過量服薬防止のキーパーソンとして活用することとした。厚労省は、近く薬剤師による患者への声かけや、疑義照会への協力を求める通知を、日本薬剤師会などの関係団体に発出する予定。
PTがまとめた対策では、▽即座に着手すべき予防策▽ワーキングチーム(WT)を設置し、時間をかけて検討していく対策--を明記。
すぐに実施すべき取り組みとして、▽薬剤師の活用▽ガイドラインの作成・普及啓発の推進▽研修事業に過量服薬への留意事項を追加▽一般医療と精神科医療の連携強化▽チーム医療で患者と良好な関係を築く――を挙げた。
過量服薬の問題については、患者と良好な治療関係を保つことができる十分な診療体制が不足している点を指摘。その上で、薬剤師を「適切な医療に結びつけるキーパーソンとして重要な役割を担う」職種として位置づけ、薬剤師が患者や医療従事者と、積極的にコミュニケーションを図ることにより、過量服薬のリスクが高い患者の早期発見を目指す。
具体的には、不眠に悩む人への受診勧奨をはじめ、処方内容や処方履歴などから、向精神薬乱用が疑われる患者に対して、「よく眠れているか」などの声かけや、処方された薬が適量かどうかチェックし、処方医への疑義照会を積極的に行えるような仕組みも作る。
ただ、投薬の不用意な規制は、患者を医療から遠ざけることになりかねないとし、処方の規制そのものには、慎重な姿勢を示している。
また、チーム医療で患者とのかかわりを深め、良好な治療関係を築く取り組みも進める。薬剤師、看護師、精神保健福祉士、臨床心理技術者などが、精神科の専門知識を得るための研修を充実し、チーム医療を担える人材を育成する。
静岡県富士市では、医師会や薬剤師会の協力のもと、薬局やドラッグストアの薬剤師が、不眠に悩む人をかかりつけ医に相談するよう、受診勧奨する取り組みを進めている。こうした試みは、一般医療と精神科医療との連携で一定の成果を上げており、富士モデルを拡大させたい狙いがある。
今後、検討する対策としては、▽向精神薬に関する処方の実態把握・分析▽患者に役立つ医療機関の情報提供▽不適切な事例の把握と対応▽過量服薬のリスクの高い患者への細やかな支援体制の構築▽患者との治療関係を築きやすい診療環境の確保――を挙げた。
厚労省は、9月中にもWTを設置し、それぞれの課題について検討を進めるが、「テーマによっては、日薬などの関係団体にも、WTに参加してもらうことになる」と話している。