最近、医薬品の本質に関わる話題で、巷間が騒がしい。8月25日には独立特別機関の日本学術会議(会員210人、連携会員約2000人)が、「総合的な科学・技術政策の確立による科学・技術研究の持続的振興に向けて」と題する勧告を総理に提出した。科学技術基本法を改正し、用語や名称の変更、新たな施策の法文化など4施策を要望した。
要望の中で、人文・社会科学を施策の対象とすることは分かるが、科学技術(科学に基礎づけられた技術と解釈)を科学・技術(科学と技術)にすることで、果たして「出口志向の研究に偏るとの疑念」を払拭できるのか。何事も深く追究する学者の理論は、時として一般人の頭ではすぐに理解できない部分もある。
さて問題は、24日付で出されたホメオパシーについての金澤一郎学術会議会長談話である。金澤氏は、医療関係者の間で急速に広がっているホメオパシーに対して、▽科学の無視▽科学的な根拠がなく荒唐無稽――とし、医療現場から排除すべきとの厳しい態度を示している。
ホメオパシーは、科学的医療が確立する以前に、民間療法、伝統療法の一つとして欧米で広がったという。特徴は、副作用のない治療法である。ある物質を10の60乗倍希釈した、ほぼただの水を染みこませた砂糖玉なので、副作用があるはずはない。化学、生薬の由来を問わず医薬品には、科学的エビデンスに基づいた効能・効果がある。生体に作用するのであれば、副作用があるのは当然であり、誰でも理解できる。
ホメオパシーに限らず、民間療法や伝統療法と呼ばれる行為を行うことは、個人の自由であるので禁止することははできない。作用も副作用もない心理的な効果やプラセボ効果を期待し、ある一面で昔から重宝されてきたこともある。
病気でもないのに薬をねだるおばあさんに小麦粉を渡し、後日、「先生、あの薬はよく効くね」と喜ばれた逸話なども、まことしやかに言われていたものだ。科学に基づかない医療以外に治療効果、錯覚効果を求める場合、個人の自由ではあるが、最終的に自己責任に帰結することは、肝に銘じておくべきだろう。
日本医師会と日本医学会は25日に、日本薬剤師会も26日に、学術会議会長談話を支持する見解を発表した。
日薬の見解では、ホメオパシーについて、「科学的にエビデンスが明確に証明されていない、曖昧な医療類似行為を医療従事者が行うことは、患者の適切な医療を受ける機会を損ない、症状の悪化を招来し、時として死に至らしめる可能性も否定できない」「安易にこうした行為を行うことは厳に慎むべき」と指摘した。
さらに、医薬品の専門家集団として、「医薬品の適正使用の観点、国民患者の安全な医薬品使用を確保する観点から、入手手法のいかんにかかわらず、極めて重大な問題であると認識している」と強調した。
先人たちは、膨大な時間と努力を払い、科学的根拠をベースに、有用な医薬品を創り上げてきた。日本は、エビデンスに基づく医療を進めている。生命に関わる全ての医療従事者は、科学を無視した医療行為、治療を行うべきではないし、ましてや推奨することも厳に慎むべきだ。
科学立国日本で、非科学的な医療が浸透してしまってからでは遅い。医療、医薬品産業の存在意義さえ危うくしてしまう。正しい理解を促すために先手を打った今回の会長談話発表は、大きな効果があったといえる。