知的財産ネットワーク(IPSN)と政府系の産業革新機構(INCJ)は6日、大学や公的研究機関が保有するライフサイエンス系の知的財産を集約してライセンス化する国内初の知財ファンド「LSIP:Life-ScienceIntellectual property Platform Fund」(エルシップ)の設立を発表した。対象は、[1]バイオマーカー[2]ES/幹細胞[3]癌[4]アルツハイマー--の4分野。INCJと製薬大手ら民間企業が出資する官民事業で、運営はIPSN100%子会社の「LSIP運営合同会社」が行う。
オープンイノベーション実現へ
LSIPでは、各大学がそれぞれ権利化したり、周辺特許が押さえられていないために価値が低かった知財を取得し、必要に応じて補足研究を実施し、不足データを補って魅力的な知財群を形成して、製薬企業やベンチャーに売却する。研究ステージによっては独占的な権利とする場合もあるが、基本的には通常実施権を想定している。
現在、対象とする4分野だけでも、候補となる特許は約3000件あると推定されるが、当面は過去5年間程度を精査して、数百件の買取りや実施権の取得を目指す。約5700件の特許を保有する科学技術振興機構も協力する予定だ。
ファンドには、INCJが設立時に6億円、その後は事業の進捗に応じ、3年間で計10億円を上限に出資して、過半を維持する。民間からは既に武田薬品工業が出資を決めており、アステラス製薬、第一三共、エーザイとも交渉している。
設立会見でINCJの能見公一社長は、「オープンイノベーション実現の典型的なモデル」とし、「世界的にも例がそれほどたくさんあるわけでなく、難しい課題に取り組むとの認識を持っているが、多くの大学や企業の関係者が必要性を強く感じている課題でもある」と述べた。
また、IPSNの秋元浩社長は、「製薬産業の育成やベンチャー創出に使うことが原則。基盤的な研究をできるだけ広く使っていただくことで、成果としてよいものが出てくる」と、事業の目的を説明した。
IPSNは製薬OBらが昨年7月に設立した株式会社で、日本製薬工業協会が2008年4月に提言したものの、実現に至らなかったiPS細胞知財戦略コンソーシアムや、その後に実施した知財支援プロジェクトを引き継ぐ組織。秋元社長はLSIPについて、「当時から先端ライフサイエンス技術もiPSと同様に保護してほしいという声が非常に高かった。それに基づいてライフサイエンスの先端的な分野に広げ、逆にいうとES/幹細胞にiPSも含まれるという形になったと考えていい」と述べた。