「自殺予防と遺族支援のための基礎調査」で、自殺既遂者76人の遺族について面接調査した結果、自殺時に半数以上が向精神薬を過量摂取していることが分かった。調査は、2009年度厚生労働科学研究費の「心理学的剖検データベースを活用した自殺分析に関する研究」班(研究代表者:加我牧子氏=国立精神・神経センター精神保健研究所)が実施したもの。特に、青少年自殺既遂者の8割では、何らかの精神障害に罹患しており、それが自殺の重要な危険因子になることも示唆されている。
基礎調査は、▽広範な心理学的剖検の実施可能性・心理学的剖検データベース・システムのあり方▽自殺予防の介入ポイント・遺族支援のあり方--を検討するために実施された。07年12月から09年12月末までに、76人の自殺既遂者の調査面接を行い、自殺既遂者事例と地域・性別・年齢を一致させた対照群の調査も行い、自殺既遂者事例の特徴について、数量的分析も行った。
職業の有無で分析すると、有職者は既婚の中高年男性を中心とし、死亡1年前にアルコール関連問題や、死亡時点の返済困難な借金といった社会的問題を抱えていた。無職者については、有職者に比べ女性の比率が高く、青少年の未婚者が多かった。有職者のように、社会的問題は確認されていない。
死亡前1年間に精神科・心療内科の受診歴があった群(精神科受診群)と非受診群に分けると、両群とも38人ずつだった。受診群でやや女性が多く、また39歳以下が63・8%を占め、非受診群に比べ有意に若年だった。受診群のうち、半数を超える57・8%が、自殺時に治療目的で処方された向精神薬を過量摂取しており、55・6%が死亡前に自傷・自殺未遂を経験していた。
精神医学的診断では、共通して最も多かった診断名は気分障害(63・5%)で、受診群で統合失調症の割合が18・9%と非受診群に比べて高く、非受診群で適応障害(16・2%)が高い点で有意差が見られた。受診群の受療状況パターンでは、89・5%が死亡前1カ月以内と、自殺の直近に受診していた。
中高年男性の有職者、アルコール問題抱える
死亡1年前に、アルコール関連問題を抱えた群の自殺事例では、40~50代を中心とした中高年男性で、しかも有職者という特徴があった。さらに、▽習慣的な多量飲酒▽自殺時のアルコール使用▽自己傾性、死亡時点の返済困難な借金▽アルコール依存・乱用--といった診断が可能な人が、81%に認められるといった特徴もあった。なお、アルコール関連問題の有無で、自殺前の精神科受診歴に差はなかったが、アルコール関連問題を標的とした、治療・援助を受けていた事例は皆無だった。
76人のうち、30歳未満の20人を対象とし、精神医学的、心理・社会的問題の経験率を算出すると共に、男女の経験率も比較した。その結果、全体の8割に、何らかの精神障害への罹患が認められた。これは、若年世代でも精神障害への罹患が、自殺の重要な危険因子になり得ることが示唆されるものだった。
精神医学的診断以外の心理・社会的変数では、▽過去の自殺関連行動の経験▽親との離別▽精神障害の家族歴▽不登校経験▽いじめ被害経験--といった変数で、4~6割の経験率が確認され、特に女性の事例で、こうした危険因子の累積が多く認められた。
また、不登校経験者の75・0%は学校に復帰しており、目先の学校復帰もさることながら、学校教育現場での長期的視点に立った、精神保健的支援の必要性が示唆される結果ともなっている。
若年期の経験も注意
一方、08年1月から09年7月までに収集された20歳以上の自殺事例52例についても、近親者に対し対象群群本人の情報を聞き取り、これを既に収集されている事例群の情報と比較した。
自殺のサインでは、▽死について口に出す▽過去1カ月の身辺整理▽不注意や無謀な行動▽身だしなみを気にしなくなる--が自殺のリスクと強い関係にあった。また従来からの、▽自傷・自殺未遂の経験▽失踪や自殺以外の過去1年間の事故経験▽親族や友人・知人の自殺および自殺未遂--も自殺と強い関係があった。
職業関連要因では、配置転換や異動に関する悩みがある場合に、自殺の相対的リスクが有意に高かった。
心理社会的要因では、▽子ども時代の虐待やいじめ▽家族や地域との交流の少なさ--が自殺リスクと有意に関連していた。身体的健康に関しては、ADLに伴う身体的問題がある場合に、自殺リスクが増加していた。睡眠障害がる場合も自殺の相対的リスクは高かった。
このほか、飲酒者でも自殺の相対リスクが高いが、特にアルコールを寝るために使用する場合に相対的リスクは高くなっている。大うつ病のほか、アルコール乱用・依存、精神病性障害、不安障害が自殺と有意に関連している。