臨床試験で発生した副作用を、非臨床の毒性試験から予測できるかについて調べたところ、ヒト副作用のうち約7割が動物でも見られたことが、製薬企業等が参加する国際的な非営利団体「HESI」(環境保健科学研究所)専門委員会の調査で明らかになった。16日に沖縄コンベンションセンターで開かれた第37回日本トキシコロジー学会で、米アボットのウィリアム・ブラッケン氏が発表した。昨年開かれた日本製薬医学会、安全性評価研究会ファーマコビジランス分科会の合同シンポジウムでは、エーザイから開発中止化合物のデータが初めて明らかにされたが、今回、欧米製薬企業が組織的に安全性データを共有し、ヒト副作用と動物データの相関性を検討している国際的な事例が紹介された。日本でも開発中止化合物等の安全性データを共有し、被験者の安全確保に生かせるかどうか、非臨床と臨床の連携に向けて課題が浮かび上がった。
HESIは、臨床試験で見られた副作用が、非臨床の毒性試験から予測できるかを調べるため、非臨床・臨床相関性専門委員会を立ち上げ、欧米製薬企業12社のデータを収集。非臨床と臨床における安全性評価を行った。
これまでの報告では、特にヒトの肝毒性、腎毒性と非げっ歯類データが一致せず、偽陽性率が高いことが指摘されている。同委員会では、抗腫瘍薬、抗感染症薬、心血管系薬、中枢神経系薬から、投与量の制限が必要な副作用など222のヒト副作用を収集。動物毒性データとの一致性を調べた。
最初にヒト副作用が見られた臨床試験段階を見ると、第I相が55%、第II相が33%、第III相が12%。そのうち開発中止に追い込まれた例は、第I相で40%、第II相で43%に上った。ヒト副作用が予測できた非臨床の動物種は、非げっ歯類、げっ歯類のいずれかで71%となったが、動物では予測できなかったヒト副作用も29%に上った。
また、投与部位別にヒト副作用と動物データの一致性を見たところ、心血管系や血球系、消化管毒性は80%以上と高い一致性が見られたが、肝毒性は約50%、皮膚毒性は約35%と低かった。しかも、肝臓や皮膚のヒト副作用は、開発初期段階ではなく、第II相・第III相で初めて見られる例が多いことが分かった。
調査結果から、ヒト副作用のうち71%は動物でも毒性として見られることが明らかになったが、ブラッケン氏は「げっ歯類、非げっ歯類のどちらかでは予測性が低いため、両方の動物種を使うのがベスト」とした。
ただ、今回の評価は、後ろ向き調査であったことに加え、薬理機序の検討も限定的で、一致性の判定基準も厳しくなかったなど、限界も浮かび上がった。そこで現在、非臨床の毒性試験を開始した200以上の化合物について、製薬企業14社の前向き調査を実施中で、間もなく終了する見込みとなっている。
一方、昨年に引き続き、開発中止となった事例として、アストラゼネカから抗凝固薬「キシメラガトラン」、日本たばこ(JT)から糖代謝、脂質代謝改善薬が紹介された。これら具体的事例を踏まえ、総合討論では、臨床試験で発生したヒト副作用を非臨床にフィードバックする重要性が改めて指摘され、「まだ、公開された開発中止化合物はわずかだが、ドロップアウトした化合物は毒性学の宝庫であり、皆で情報共有すべき」との意見も出た。
HESIでは企業の枠を超え、非臨床と臨床で安全性情報を共有しつつある。こうした中、日本でも開発中止化合物のデータを公開、共有し、規制当局を含めた連携を検討していくことが今後の課題となりそうだ。