■がん診療連携拠点病院を強力支援
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昨年10月1日、東京築地の国立がんセンター内に「がん対策情報センター」がオープンした。癌医療の均てん化を目指し、最新情報の収集・提供に取り組んでいく。癌患者団体の要望も踏まえて立ち上がった同情報センターは、行政からの一方通行ではなく、運営評議会に患者側の代表も加わるなど、患者参加型の運営も特徴だ。昨年の開設式で国立がんセンターの垣添忠生総長は、「医療機関、学会、行政、企業、患者が一体となり、“オールジャパン”で癌を克服していきたい」と力強く語った。
■情報提供体制は着実に整備
同情報センターは、2005年8月に厚生労働省がん対策推進本部がまとめた「がん対策推進アクションプラン2005」で、がん診療連携拠点病院(連携拠点病院:昨年12月現在179施設)を結ぶ癌情報提供ネットワークの中心に位置づけられている。
機能としては、[1]医療情報提供[2]サーベイランス[3]多施設共同臨床研究支援[4]癌診療支援[5]研究企画支援――の五つ。初年度は、情報提供や収集の面で、連携拠点病院との連携をはじめ、学会や研究機関、関係官庁、製薬企業などとのネットワークづくりに重点が置かれている。
医療情報の提供については、国立がんセンターのウェブサイトから独立させて開設した「がん情報サービス」サイト(http://ganjoho.ncc.go.jp/)が中心。患者やその家族など一般の人々や、医療関係者、連携拠点病院と対象ごとにセクションを分けて、癌に関する医療や研究の情報、拠点病院に関する情報、薬に関する情報等を発信している。
オープン当初の10月で見ると、1カ月のアクセス件数は約210万件に達し、さらなる増加を見込む。今後はサイト掲載の内容をまとめ、より多くの人が情報にアクセスできるよう、今年度中にパンフレットも作成する予定だ。
このような状況を見ると、同情報センターの仕事は一般の人たちが対象だと思われがちだが,センターの役割の中心は、情報基盤の整備。一人ひとりの患者に直接対応するのではなく、全国の連携拠点病院へ、相談支援や診療の基盤となる情報提供、診療支援を提供し、間接的にサポートするのが役割だ。
診療連携拠点病院は、癌患者やその家族などから相談を受け付ける相談支援センターを設置することとなっている。患者等から寄せられる相談は、癌の告知や治療法、病院選び、生活面や経済面、心の不安など多岐にわたり、対応には高い専門性が必要とされる。
こうした相談支援場面でよりよい対応ができるように、同情報センターが、各病院に診療ガイドラインなどの情報を提供したり、相談のためのQ&A集を作るといったサポートをしていく。
また、患者からの相談だけでなく、病院での診療についても、癌診断に関わる部分などで支援を始めている。試行段階だが、診断の難しい癌について、拠点病院から病理検査のプレパラートや放射線フィルムを受け付け、情報センターの病理部門・診療支援部門が診断支援を行うといったものだ。
癌に関する統計情報の整備に向けた、院内癌登録の標準化も重要な使命の一つ。日本の癌統計は、人口動態統計として公表されているが、部位別や年次推移、将来予測などの情報の整備が遅れている。登録様式の不統一などによる統計精度の低さも指摘されている。
同情報センターは、各連携拠点病院で07年度診断例から、標準的な院内癌登録が実施されるよう、全国で登録実務者養成のための研修を行うことになった。
さらに連携拠点病院とのコミュニケーションをより円滑に進めるため、現在、診療拠点病院とオンラインでつなげるシステムを整備している。稼働は3月末の予定だ。今は画像などの診療支援は、郵送で行っているが、システムが稼働すれば、ネットワーク上で即時にやりとりすることが可能となる。
また、診療支援としてTV会議システムがある。接続を希望する連携拠点病院で、医師や看護師、放射線技師など職能に応じてセミナーなどが企画され、周辺の一般病院からも会議参加が可能だ。このシステムには現在、18連携拠点病院が参加しており、今後は全国に広げていく予定となっている。
■ニーズに沿った情報へ”もう一工夫求める声も
癌に関する情報提供は順次進められているが、そのベースとなる情報収集の体制づくりはまだ始まったばかり。そのため今年度中をメドに、基本となる体制を作り上げ、将来に向けて情報発信を充実させることが課題となっている。
ユーザー側からの指摘もある。たとえばサイト上の各種癌の解説に対し「癌ではないかと疑いを持つ人向けには、初期症状についての分かりやすい解説や、受診を促してくれる説明が欲しい。進行癌の患者ならば抗癌剤の選択や副作用への対処法など、利用者のニーズに合わせた情報が必要」(「癌と共に生きる会」事務局長・海辺陽子氏)と情報にもう一工夫を求める声もある。
癌の標準治療や最新の治療情報は、米国国立癌研究所(NCI)のPDQ(Physician Data Query)のサイトが詳しく、同情報センターでも日本語版サイトにリンクを張っている。そのほか、実績や利用者の多い既存のポータルサイトもある。
このため、「国立がんセンターに設置された情報提供機関としてのみ提供可能な情報について、収集と分析、提供に努めるべき」(山本たかし参議院議員による意見書)という要望も寄せられている。
同情報センター側では、こうした情報提供上の課題も踏まえ情報の拡充を図っている。米国PDQの診療については、日本の標準とは異なる場合があるので、専門医による解説を順次加えていくこととしている。
連携拠点病院の情報でも、厚労省が進めている調査をもとに、4月頃にも専門医の所属学会や年間の手術件数、対応可能な治療など、より詳細な情報を掲載する予定だ。
しかし、情報収集に関しては、国立がんセンター単独では限界がある。垣添総長ら運営メンバーからは、「オールジャパン」で癌克服に向けた対策を進めることが提言されている。学会、研究機関、製薬業界など各方面の連携をもとに、同情報センターが中心となって情報を作る体制に,切り替えを図っていくという考えだ。
例えば医療情報に関しては、胃癌学会、大腸癌学会など各学会を通して専門医に確認を依頼するという形。また、製薬企業の協力により、添付文書の変更などの情報も随時更新できる体制にしていく予定だ。
さらに、患者側に経験者として、情報作成に参加してもらう計画もある。体験談として、生活上や、心理面で支えになるようなコンテンツをまとめて、サイト上などで公開していくという。
情報提供体制の一層の充実のため、患者の要望を受け昨年12月、運営評議会の下に患者と対話するワーキンググループを設け、月例で開催していくことになった。また今月からは、連携拠点病院や地域の癌患者と意見交換や意思疎通を図るため、同情報センタースタッフが各地域を回って、地域懇話会を開く計画にもなっている。
患者の中でも特に進行癌や、余命が限られたケースでは、抗癌剤など最新の医療情報について,可能な限り迅速で、きめ細かな情報提供が欠かせない。
若尾文彦・同情報センター長補佐は、「がん対策情報センターはこうした切実な要望に応え、日本の癌医療を全体として引き上げていく使命を担い、情報提供の中心として、協力体制を早期に築くことが求められている」と話している。