トーショーは、抗癌剤の混合調製をロボットが無菌環境下で自動的に行う装置「CytoCare」(サイトケア)を新発売した。医療従事者や患者が抗癌剤に暴露される危険性を減らせるほか、人為的なミスのない、確実で正確な調製を行えることがメリット。世界では2006年以降、20カ国約50施設で稼働している。日本では初めて亀田総合病院が導入、5月から稼働を開始する。
抗癌剤暴露防ぎ人為的ミス防止
抗癌剤は正常な細胞にとっても毒性がある。混合調製時にエアロゾル化した抗癌剤を吸入したり、しぶきや跳ねによって皮膚や目に抗癌剤が付着し、体内に取り込まれると危険だ。サイトケアは、混合調製を自動的に行うことで、抗癌剤の人体への暴露を防止できる。
操作者がサイトケアに抗癌剤、輸液、シリンジ、針などをセットすると、産業用の多関節ロボットアームがそれらを摘んで、クラス100の無菌エリアに移動させる。このエリア内で、バイアルに注射針を刺し込んで、抗癌剤を抜き取ったり、輸液バッグに注入したりする混合調製の作業が、ロボットによって全て自動的に行われる。使用済みの容器や注射器は、専用のゴミ箱に自動的に廃棄され、密封された状態で安全に取り出せる。
また、受信した処方や患者のデータをもとに、抗癌剤など各種薬剤や容器の重量を、精密電子天秤で0・01g単位まで測定しながら作業を行うため、人為的なミスはなく、正確で確実な調製が実現する。調製過程は重量を含めて正確に記録されるため、トレーサビリティ(追跡可能性)が高まる。
混合調製の処理には、人が行う場合に比べて約3倍の時間を要する。ただ、これは重量測定による鑑査を行うなど、人での作業にはない工程が入っているためだという。
サイトケアは、抗癌剤に特化した世界初の自動調製装置として、イタリアのヘルスロボティクスが開発した。トーショーはそれを輸入し販売する。奥行きは約160cm、幅と高さは約220cm。1台の価格は約1億5000万円と高いのが導入のネックだが、長期的な視点で癌拠点病院を中心に導入を働きかけていく。亀田総合病院のほか、国立がんセンター中央病院でも11月から稼働する見込みだ。
岡山市内で開いた会見で、亀田総合病院薬剤部長の佐々木忠徳氏は、サイトケア導入の理由として、[1]人為的ミスによる事故の発生防止[2]医療従事者や患者の安全性向上――を提示。導入やメンテナンスに費用はかかるが、「医療スタッフが何らかの健康的な被害を受けたり、事故につながったりすることを考えて、経済性を分析しないといけないし、有用性はある」と話した。
亀田総合病院では5月の導入以降、早い段階で抗癌剤混合調製業務の50~70%程度を、サイトケアに置き換える計画だ。将来は複数台を導入し、抗癌剤混合調製業務の全てをサイトケアに移管したい考え。浮いた薬剤師のマンパワーを、副作用の発現防止など臨床業務の充実に充てたいという。
ロボットの利用は海外で活発だが、最近になって日本でも、PTPシートを1錠単位で切断し自動的に払い出す装置や、水剤自動調剤装置が発売されるなど、計数・計量調剤をロボットによって自動化する動きが高まっている。注射薬については、調製を自動的に行うロボットが、海外で01年頃から登場している。今後、各業務をロボットに移管しつつ、薬剤師の職能をいかに発展させていくかが注目されるところだ。