心筋梗塞などの冠動脈狭窄に対して、薬剤溶出性ステント(DES)に代表されるPCI(冠動脈カテーテルインターベンション)が行われることが多くなっている。欧米では、免疫抑制剤のシロリムスや抗癌剤のパクリタキセルをコーティングしたDESが広く用いられ、従来のメタルステントに比べて再狭窄率が格段に改善される成績が得られている。ただ、留置したステント関連の再狭窄率は減少しても、再発症率には大きな違いがないことが分かってきており、PCIの普及に伴って、より再発防止が重要になってきている。都内で講演した代田浩之氏(順天堂大学循環器内科)は、そうしたPCI後の再狭窄・再発症防止対策として、「不安定プラークを安定化するスタチン系薬剤の投与が有効」と報告した。
DESの開発によって再狭窄率は飛躍的に進歩してきた。従来の金属製ステントとDESを比較したメタアナリシスでは、金属製ステントの再狭窄率が30%であったのに比べ、DESでは10%と明らかに低く、心事故も同じく20%、10%と優れた成績が得られている。しかし、心筋梗塞の発症や全死亡に関しては、DESを用いてもほとんど変わらないことが報告されている。
実際、カテーテル治療を行った数年後に、突然、冠動脈閉塞を起こす患者も少なくない。それをまとめた研究によると、50%以下の冠動脈狭窄の患者からも高頻度で心筋梗塞が起こっていることが分かった。一見正常に見える患者でも、突然、心筋梗塞を起こす可能性があるわけだ。
通常、動脈硬化は、正常血管でプラークが進行し、労作性狭心症の発症からプラークの破綻を招き、心筋梗塞や突然死に至る。しかし、狭心症を起こさない程度の血管でも脂質が多く、線維性皮膜が薄いなどの状態であれば、不安定プラークが破綻して一気に心筋梗塞が起こってくることが考えられる。実際に不安定狭心症患者の予後は、極めて悪いことが報告されている。
それだけに、不安定なプラークを発見して早く治療していく必要があるわけだが、血管内超音波法(IVUS)を使った研究からは、急性冠症候群、急性心筋梗塞では閉塞を起こした責任病変のみならず、血管の他の部位にも病変があることが分かってきた。現在では、急性冠症候群は1カ所の血管病変でなく、血管が詰まりそうな病態で不安定なプラークが多発しているとの理解がされている。
そこで、急性冠症候群の危険因子である不安定プラークを治療できるかについて、代田氏らは「ESTABLISH Study」という臨床研究を計画した。試験では、高脂血症治療薬のアトルバスタチンによる積極的な脂質低下療法が、PCI後の再狭窄防止に向けて、急性冠症候群患者のプラークを退縮させるかどうかについてIVUSで調べられた。
その結果では、LDLコレステロールが42%、総コレステロールが25%低下し、最も重要となるプラーク体積も、約13014%退縮していることが明らかになった。一方、食事療法のみを行ったコントロール群では、逆に7%程度プラーク体積が増加していた。
また、LDLコレステロールが下がれば下がるほど、プラークは退縮していくことも分かった。代田氏は「欧米では、おそらくこのような結果になると言われてはいたが、初めてプラークの退縮が起こるということが血管内超音波で分かった」と報告した上で、「日本人のコレステロール治療には議論があるところだが、急性冠症候群のように非常にリスクが高い不安定なプラークに対しては、スタチンの投与も意義があるのではないか」と語った。