日本医療政策機構は、いわゆる“癌難民”に関する調査結果を発表した。癌難民を広く定義し、アンケート調査を行った結果から、[1]癌患者の53%は癌難民である[2]癌難民とされる患者は多くの医療機関を受診しており、癌難民が解消されれば最大5200億円の医療費削減効果がある――と報告。また、癌難民は主治医からの説明時間が短いなど、疾患や治療についての十分な情報が得られていない傾向も見られたとし、癌難民解消には主治医による詳細な説明が重要だと指摘した。
調査は2005年上半期に、癌患者会及び癌患者大集会への参加者や、癌患者向けウェブサイト(NHK)を通じて行われた。分析は、性別・年齢・癌の原発部位の全項目に回答のあった1186人を対象とした。
癌難民の概念としては、末期癌で行き場を失った癌患者などの狭い定義も用いられるが、今回は「医師による治療説明に不満足だった、または納得できる治療方針を選択できなかった癌患者」と広く定義した。調査から癌患者の53%が、この定義の癌難民に当たることが分かった。
今までにかかった医療費を聞いたところ、保険診療費の自己負担分は癌難民141万円に対しそれ以外の癌患者は96万円で、1.47倍の格差が見られた。総医療費では癌難民305万円に対し、それ以外の癌患者は176万円であった。
受診した医療機関数を平均すると、他の癌患者が1.95軒なのに対し癌難民は3.02軒で、一人当たり1軒以上の開きがあった。こうした状況から政策機構は、複数医療機関の受診や診療方針の変更が、癌難民の医療費を膨張させた原因と分析している。
1.47倍という自己負担分の差に基づいて試算した結果、癌難民が100%解消された場合には年間で5227億円、50%解消では2614億円の国民医療費削減につながるとの推計も示した。
また癌難民についての分析では、94%が治療に関する説明に不満を持っていた。治療の説明時間も他の癌患者が28分なのに対し癌難民は19分と、約3分の2の時間しか割かれていなかった。このほか、「理解できるまで何度も主治医に聞いた」割合が、癌難民が24%なのに対し、他の癌患者は65%にのぼり、説明不足が治療方針への不満につながっている可能性も示唆された。
これらの結果から政策機構は、癌難民を解消するためには、理解されるまで主治医が何度も説明することが必要だと指摘した。