英国で発生したTGN1412事件をめぐって、先に開かれた日本臨床薬理学会では、「第I相試験のあり方も再考すべき」など、多くの意見が交わされた。森和彦氏(医薬品医療機器総合機構)はこの事件を、「ヒト初回投与試験(First in Human Trial)の安全性が揺らぐ事件だった」と振り返り、「当面は抗体医薬を中心に、免疫系にアゴニストとして作用する薬剤を最初にヒトに投与する時は、極めて慎重にならざるを得ない」との考えを示した。
TGN1412事件では、CD28を介する未知の生体反応が起きた可能性が指摘されている。ただ、安全係数をみるMABEL法に基づいて、初期推奨用量を算出してみると、TGN1412の場合は、安全係数を20倍も高くする必要があったと言われている。推奨用量は、動物の1万分ノ1の投与量とされていることから、TGN1412事件は、初期投与量の多さが原因との可能性も否定できないとされる。
森氏は、「動物試験で影響のない用量と、ヒトへの初回投与量の開きを大きくすることが必要」と述べ、「ヒト初回投与のケースには最大限の注意を払い、先行する海外試験成績があれば最新版を確認すべき」と提言した。また、被害を最小限にするためには、「短い間隔で複数の被験者への投与を避けることも重要だ」と語った。
内田英二氏(昭和大学第2薬理学)は、過去に起こった第I相試験の事件を引用しながら、現在はICH-GCPの適用でヒト初回投与の実施状況は改善が見られるとの考えを述べた。ただ、ヒト初回投与試験の安全性情報への迅速なアクセスは、規制当局と製薬企業に限定されているのが現状。内田氏は、「透明性とリスク管理の欠如と言われても反論できない」と問題点を指摘。TGN1412事件が、日本でほとんど扱われていないことにも疑問を投げかけた。
その上で、「第I相試験では、初期救急対応が最も重要である。治験依頼者も緊急時に本当に必要な対応ができるかどうか、施設の体制をきちんと確認してから実施すべきだ」と、第I相試験の進め方に再考を求めた。